第十二話 一大事
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そこから竜が目を覚ましたのはそこから三時間後だ。
特にすることはなかったので、一人ずつ代わりばんこに周囲の警戒をし、残りは昼寝などをして、時間をつぶしていた
今はシャニが警戒の番だ、
「異世界に来てまだ2日目か...それなのに普段の仕事よりも疲れる気がするよ...」
彼女の日本で仕事は美容師、散髪している間もお客さんとのコミュニケーションが必要な職業で、そこそこ固定のお客さんもつくようになってきた頃に、今回の異世界転移だ。
「あっちが精神的に疲れる仕事だとすると、こっちの生活が肉体的な方に負担がかかるってことだろうな」
普段からあまり運動しない彼女からすると、転移する時に体を入れ替えたとはいえ、長時間動いたときの方の疲れが感じやすい。
だがこうやって、一人の状況で自分を見つめ直していると、自分の現在の体や心の状態を改めて認識し、今までは絶対に見たことが無かった景色と空気を堪能すると、その心の細波も落ち着いてくる、
「...一番年上の私が心くらいは強く持ってないとね!」
人間の体と心はひ弱だが、どちらも人間は補い合うことによって強くあることができる。
頼りにされるほど強いとは彼女自身思ってはいないが、今となっては人に頼るということがあまりできない以上、二人には頼られる存在になろうと強く思うシャニだった。
「お前ならきっとできる...」
「誰!?」
立ち上がり辺りを見渡すが、人影は見えない。
物音ひとつ立たせずに数刻辺りに注意を払っていると、寝ているはずだった竜とふと目が合う
彼方も顔は動かしてはいないが、目線を動かすとそちらの方向に動かす。
まさか言葉を理解している?
でもそんな素振りは一切見せなかった筈...一体何が。
そう思っているとダイスのアナウンスが当りで響く。
普段は頭の中とかで響いているように聞こえるはずなのだが、今回は鼓膜を震わせる、しっかりとした音だ。
「意思疎通や生命の救済措置により成長判定開始の規定値を満たしました...技能『意思疎通』の
成長判定1D20を開始します...19...初期値01より19成長...現在値20...」
「成長判定?値が伸びるようなことはしてないんだけど...」
成長判定、それはTRPGにおいてストーリーをクリアした際に、プレイヤーが操作するキャラの
技能値の増加をさせることである。
実際に物事を経験したりすれば、次回は効率や質が上がるのと同じような感じだ。
その儀式を行うにはストーリー中に一度は技能判定を成功させなければならないのだが
今回は意思疎通の判定などは行っていない。
判定のきっかけとなると、謎の声が聞こえたことか。
「まさかあの声って君が出したもの?」
そういい、隣に俯せている竜の首筋の顎の部分を優しく撫でる。
すると、撫でられる気持ち良さに目を細め、顔を腰のそばまで持っていき、シャニがそれを撫でると、高い鳴き声を上げる。
「クルルルルル...」
「『意思疎通』のダイス判定...14...成功」
「...儂をもっと撫でんか」
「儂って...そうかそうか、結構年重ねてそうだけど、苦労してるんだな。」
どの世界でも、生き物ってどこかで必ず苦労はしてるとは思ったけど、
竜ほどの捕食序列のトップほどの大きさになったとしても、人間と変わらず甘えたくなることがあるのだろう、それにしてもなんか可愛いなあ!
どこか甘えてくる様子に、犬を撫でるような感じで強く両手で首を撫でまわす
そうして、ふと変なことを思ったり、竜にいきなり抱き着き驚いたような顔を見せるが、彼女の撫でる技術で機嫌をもっと取ったりと二人が起きるまで戯れていた。
太陽が地平線に消えようとしていると、二人が目を覚ます。
「ふわぁー...なんかありました?」
ミレイが腕を伸ばし、眠そうな目をこすりながら抱き着いているシャニに問う
グレイは意識を完全に覚醒させるためその場で跳ねる。
「いやーね、なんかずっと触れ合ってたら、偶にこの子が言ってることが分かるようになっちゃった!」
「...は?」
てへっと舌を出し、竜の頭を腕を全開の状態で抱き着く。
二人はいきなりそんなことをした彼女を下ろそうと手を伸ばすが、竜が立ち上がり彼女を持ち上げる。
「おっとっと!」
突然首を持ち上げたため、頭の突き出ている角部分にしがみつき、
何とか落ちないよう体の体重を頭のほうに掛ける。
「ふんッっく!」
「先輩大丈夫ですかー!!」
「なんとかー!」
「俺たち一応下に待機してるんで、何とか落ちてもキャッチします!」
何とか頭の上に登ろうと踏ん張るシャニを下から見守る二人、本人は鱗の飛び出している部分に足をかけ、上に登ろうとしていた。
「STR対抗...シャニのSTR値12、重力のSTR10...60以下成功...54...成功」
「ファイトぉ!!」
歯を食いしばり力を出し切ると、何とか頭の部分に馬乗りになることができた。
あまり無い腕の酷使によって、筋肉が悲鳴を上げているが、そこから見える景色に心を奪われ、
感嘆の声が漏れ出す。
「わぁ凄い...!ねえ二人とも!ここから見る景色すごく綺麗だよ!」
「先輩あまり無理しないでくださいね!そろそろ明るさが足りなくて視界が悪くなってますから!」
日は完全に沈み空が遂に青みがかり、シャニの場所を見つけようにもそろそろ難しくなってくる頃だ。
「俺も見て見たいんですけど、出来るか聞いみて下さい!」
「あの竜さん、私を乗せてくれたのはありがたいんだけど、できればあの二人も乗せてくれないかな、この景色を見せてあげたくてさ」
「『意思疎通』のダイス...20以下で成功...08...成功」
「なにそんな事か、お安い御用よ。ほら捕まるがいい」
そういい地面に腕を置き、二人では大きさ的に乗ることが出来ないので、捕まって背中側に乗る
「うわー...すげぇ、昼の景色も相当綺麗だと思ったけど、昼と夜で顔を変えるって最強かよ...」
そこから見えたのは、森中に広がる淡い白の光と、所々にある色とりどりの小さな浮遊物体だ
その二つが暗い森を照らし、色鮮やかに飾ってる。
しかしそれは町の方角だ、反対側の森の奥の方角を見てみると一部からキャンプファイヤーらしき煙が上がっている。それに気がついたのはグレイだ。
「健斗、先輩。向こう側の方向で煙が上がってるんですけど、見えますか?」
「うん見えるよ。なんか微かに影が見えるような...」
「一応目星と、聞き耳振ってみましょうか。こんな時間にやってるのは色々怪しいですからね」
「ミレイ、シャニの『目星』及び『聞き耳』のダイスロール...それぞれ『目星』65、70以下で成功
『聞き耳』70以下で成功...『目星』の判定...27、32成功。
続いて『聞き耳』の判定...10、80...ミレイは成功、シャニは失敗」
すると、二人には薄く人の形の影が見え、ミレイだけは、人形のモノが言っている内容を聞き取る音ができた
「「「...いあ、いあ、ミラネウス...ぎゃるな、しゃるなミラネウス...」」」
その呪文のような暗号を聞くと、ミレイは顔を蒼ざめさせる
「どうした!?そんなに口押さえて...まさか...!俺の予想通りだったりしないよな?」
いきなりの状態変化に本気で心配するグレイだったが、ミレイが聞いた内容にすぐさま最悪の予想を立て確認を取る
「本当に神話生物召喚してるわけじゃ無いよな!?」
肩をがっしりと掴んで、問う
「...分からん、だけど何かを召喚してるのは間違いない、何かを崇めてるお決まりの言葉が聞こえたからな。」
心臓がバクバクと心拍し胸を苦しめるが、ただ一つのことだけはありがたい事がある。
「だけどありがたいのが、クトゥルフ神話の中の主な神様ってわけじゃ無いことだな。
『ミラネウス』と呼ばれてた異物だ。」
「よかった、それだけまだマシだね、これでニャル様とかが出てきたら一瞬で殺されちゃうとこだったよ...。」
クトゥルフ神話というのはその世界に神様なるものが存在しており、その種類は数えられない。
そして大半の生物は正真正銘化物で、見た目は醜悪、強さは人間は毛虫程度の有象無象と化すほど、ステータスは化け物。
シャニが口に出した、ニャル様、正式名称「ニャルラトテップ」は自由自在に姿を変え、
人間世界に狂気と混乱をもたらす存在と言われており、遭遇すれば命はない。
神の中でも絶対に会いたく無い部類の生物なのだ。
だからこそ、二人も同様に胸を撫で下ろす。
「とりあえず、今の状況で突っ込むのはやめときましょう。この竜があっちの方向から表れて、大怪我を負っていたとなると、あいつらの仕業の可能性が結構高いので」
「そうだね、でも結構時間の猶予は無さそうだし、明日武器を手に入れ次第、少しずつ捕まえて、見つかった時は盛大に直接対決しよう。それでいい2人とも?」
計画内容にミレイとグレイは頷く。
地面に下ろすよう、シャニが竜に言うと町の近くまで送ってくれるらしい。
「なんか飛んでる最中に吹き飛ばされそうな予感がするから、魔法今のうちにかけときます?」
「なんかフラグ建築みたいだがそうだな、先輩かけてもらっていいですか?」
彼女がダイスの目を振ろうとしたところ、龍が爪で肩を叩く。
「...何?ふむふむ、あ!掛ける必要ないって、飛行中は空気抵抗が減る魔法が自動展開されるらしいよ」
「いつの間にそんなにスラスラとコミュニケーション取れるようになったんですか?」
「今はね...成功値大体70くらいまで成長してるよ!」
「えぇ...?」
そうサムズアップする彼女だが、技能値の70という値は、ほぼ、その道のプロと言われるほどの熟練度となっている。
「今日1日で大体マスターするって、やば過ぎません?」
さすがに、成長度合いが、それこそ化け物な彼女にグレイも口を開くが、その言い方に
乙女の心が傷ついた!と拳骨を一発入れる、頭を抑えるが、相変わらずダメージは入らない。
「まぁそんな事は置いといてさっさと行こ!竜さんお願い!」
「ちょっと、もうちょい準備してから飛んでも...って!急上昇ってまじですか!?」
「いやっほーい!!」
「空気抵抗、結構強いじゃないですかっ!」
必死に背中にしがみ付くミレイだが、残りの二人は鱗が少し飛び出しているところに
もたれかかっているため、座っている場所が不安定なのは彼だけだ。
そして、不安定な彼に追い討ちをかけるように、空を実際に飛んでる興奮で途中に、
調子に乗り始めたシャニが、頭の方へ移動し、大の字で体に風を受けると、竜の姿勢が一瞬崩れ、空に放り投げられた彼女を受け止めようと竜が機動を急に変え、二人が空に飛び出し、
パラシュート無しスカイダイビングを三人とも、体験する事となった
街に着く前に彼たちを下ろし、元の森に帰っていく竜だったが、その背後で街中に戻る道中、ずっと、涙目で少し股が濡れている彼らに、同じような姿の彼女が謝るという奇妙な風景が作られていた。
その日の宿の話ではどんなに興奮しても、調子だけには乗らないということが、三人の中で強く決定されたのは仕方のないことだろう
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