第十一話 事件の香り
今日は少し短めです
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「それで、これを素材に回復ポーションを作るって言っても、どうしたら良いんだ?」
袋から全てのソクラ草を地面に置いたグレイが話し出す。
「そういえばポーションってやっぱり薬の類になるのかな?」
「多分そうですね、一旦制作で振ってみますね。
これでファンブルを出せば、回復剤ができるのは分かってますし」
ミレイが技能を振ることを宣言すると、アナウンスが鳴る。
「回復ポーション制作...薬学で制作...初期値01で成功...72...失敗。」
どうやら予想通り薬学の製作技能判定が行われるらしい。
元々の技能値が最低の1%なので制作方法がわからなくとも、減少値は無い。
確率論にゼロはないということだろうか。
二人は技能値を振っていないらしく、制作が成功するかは先に集めた材料が切れるか、
ミレイのファンブルを出すかのどちらかになる。
「2回目...20、失敗...3回目...76失敗」
残り三分の二
「4回目...失敗...5回目...失敗」
残り三分の一
「成功してくれ頼む!!」
「頼む...出てくれよ…!」
「ッ……!!」
三者三様の願いを込め、願う
「失敗...失敗...失敗...99...ファンブル、効果として1D3のダメージロール...01。」
「ッ!よっしゃ!
制作可能回数残り2回という時に、ちょうどファンブルを出す。
制作中に爆発が起こりダメージを負ってしまったが、結果にしてみれば、どうという事はない
「おお!ナイスだ!健斗!」
「やった!やったよ!本当にありがとう健斗!」
渾身のガッツポーズを決めるグレイと、両手を万歳状態で辺りを駆け回るシャニ。
「早く製作するんでちょっと待っててください!」
ミレイ自身も本気で喜びたいところだが、まだ目的は達成していないため、直ぐに取り掛かる
「…01…スペシャル…上級回復ポーションの製作に成功…スペシャル効果として、効果が+1D10追加されます」
すり潰し、蒼色だった花弁が緑色に変化していく、そこに湖の清水を足し、洗っておいた回復薬の瓶に流し込む。
「早く!これをあいつにかけてやって下さい!」
「分かった!」
シャニが製作し終わったポーションを受け取り、駆け足で竜の下に駆けていく。
近寄ってきた彼女に最大級の警戒の目を向け、敵対行動を取ろうとするが、
体の傷のせいで動かないため、命を諦めた様子で、目を伏せる。
「グルルルルル...」
最後もの抵抗か、少し苦しそうな唸り声を上げる
「ちょっと待っててね...」
そう言いながら竜の一番傷が深く、出血が多い背中部分に掛けていく。
「......」
見る見るうちに体の肉が再生をし始め、その暗黒色の煌びやかな鱗が形をなしていき、所々の傷も完治していく。
すると、その直っていく自分の姿を見て、三人を敵では無いと踏んだのか、
先ほどまでの唸りが止まり、相当な量の出血か、体の本調子が戻っていないのか、
力なく地面にへたり込み、そのまま気を失ってしまった
「...気絶したのか?」
「多分な...どうする?ポーションで助けた以上、俺たちも関係者になっちまったし...」
「...」
一命は取り止めることに成功し、安堵はしている三人だが、事件の香りしかしない今回の事案に、
TRPGプレイヤーとしての感が、深く詮索しないほうが身のためだと警鐘をならす。
しかし、この世界の勇者として呼ばれた使命感と、できる範囲なら沢山の命は助けてあげたい正義感が、心の中で鍔迫り合いをする。
「それで、先輩はどう思いますか?今回の事」
結局は、助けるというのもシャニが言い出したことによるので、言い方は悪くなるが、責任は彼女ひとりが背負うべきものだ。
自分たちも関わったその一端だが、その善意も彼女に頼まれてしたもので、元々は逃げる予定でいたとは言いたいが、そんなことを考えてもしょうがない。
少し抵抗はあるが、「立つ鳥跡を濁さず」だ。責任は最後まで負うべきだろう。
「そうだね、私が言うのも図々しいとは思うけど、私は最後までやりたい。
『この世界に呼ばれたから、自分の事よりもしなきゃ』っていう、正義感はあるし、
このまま放っておくのも無責任とは思うしね、でも二人にその分迷惑がかかるから強くは言えないんだけど...いいかな?」
俯きがちに、申し訳なさそうな、か細い声で言う。
自分が思っていたことと、寸分変わらないことを思っているのに、少し安堵と共感が湧く。
人間の正義感とは不思議なもので、
自分が正しいと思う事と同じような考えの人がいると、それが確証あるものだと信じる節がある。
まぁ、そんなことは今回一言も言ってはないのだけど
閑話休題
「俺もなんかこのまま放置するっていうと、心残りが凄そうなんで残ることにします。
本音はここを直ぐに立ち去りたいんですけどね」
「俺も何があるか分からねーから、怖いのは全員お互い様だって。でも先輩がそう言ってるのなら従うしか無いっすね、結局俺たちもこう関係者になった以上、解決しないとなんか呪われそうで怖いですし。一先ずこいつの目が覚めるまでは、ここにいます」
「修哉もこう言ってますし、先輩はそんなに気負う必要ありませんよ。一人だけ残って怪我をするよりは、三人で共倒れしたほうが、俺的にはまだいいような気がしますし」
「それはそれで問題だよ...」
「ですね」
二人の温かい言葉に、シャニの目に涙が浮かぶが、それを通り越すぐらい、笑顔が満開にその顔に咲く。ミレイの共倒れ発言に、少しいつもの調子を取り戻させる意図があるのは分かっているので、顔を2、3度叩き、いつもの表情を取り戻す。
そんな彼女の姿を見て二人は笑顔を向けた。
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