第九話 防具...必要か?
早朝、ミレイはいつもどおり六時前に目を覚ます。
彼は毎日朝風呂に入り、意識を覚醒させるとともに、今日1日のやる気を入れる起爆剤としてお湯に浸かる。
二人を起こさないよう静かに部屋を出ると、一階にある大浴場へと向かう
風呂場に着き服を脱いでいると、同じ列の荷物入れのロックが、かかっていることに気づく
「こんな時間に誰だ?」
大半の人間がまだ夢の中の時間である時に、自分と同じような生活習慣をしている人がいるとは…。
扉を開け中に入ると、湯船のお湯を継ぎ足すところに、六十,七十歳に見える老人が瞑想をしていた
少しの間彼を見ていたミレイだったが、彼が一向に動かない。
「…まあいいか」
そう内心思い鏡の前の椅子に腰掛け、洗髪し始める。
体を洗い終わり湯船に浸かり少し経つと、その人物が瞑想を止め、声をかけてきた
「…そこの若いの、名は何という」
「け...ミレイです」
一瞬癖で日本名を名乗ろうとしすぐに訂正すると、「そうか」とだけ言い、再び瞑想を始める
...いやなにこのおじさん、風呂に入ったら瞑想してるし、しかもなんかこっちがお湯に入った瞬間に話しかけては、そのまま何も言ってこないし!?いやほんとに何なのこの人!怖い!
表面では冷静を保っているが、内心大荒れなミレイはなんとか気持ちを落ち着かせようと、
湯銭のお湯の香りを、目一杯肺の中に入れ安静を取り戻す。
いやまぁ、そんなに心を荒らすようなことでもないか。
変な人なのは...うん確定なんだけども、とにかく今はあまり触れないでおこう。
そのまま気まずい空気が流れているうちに、そろそろ逆上せかけ始めると、その仙人(仮)は一切逆上せていない顔で替衣場へ向かう。
少しSAN値が削れそうなイベントだったけども、減少させるロールが回るわけでもなく、
特に何も起こらなかった。
「...ほんとになんだったろうなあの仙人...」
そろそろ自分も上がろうかと思いながら、頭の汗を流すためお湯を顔にかけるミレイだった。
大浴場から帰ってくると、グレイとシャニは起床しており、身支度を済ませていた
朝食がこの宿は出るらしく、そう考えると、どこかホテルのような旅館のような、
そんな雰囲気を感じる。
一回の食堂に座ると以外に人が多く感じる、よく見れば子供連れの家族もちょくちょくみられる、朝は一種のカフェのように空いているらしい。
そんなことよりも、今日の朝ご飯は堅めの白パンとレタスと照り焼きのサンドウィッチだ、堅めといってもどちらかというとフランスパン的な堅さで、食べ応えがある。
一口咀嚼すれば、鳥の甘い油がにじみ出て、口の中を駆けまわる。
それを果実水で飲み干せば完璧だ。
シャニとグレイは朝は珈琲かお茶らしいが、ミレイ一人だけ果実水だ、三人の中で一番しっかりはしているだろうが、少しそんなところで子供ぽいところがある。
本人は気づいてはいないのだが。
腹ごしらえを済ませ、宿から出る。
「で、今日はどうします?」
「とりあえず今日は、昨日の売却素材のお金回収と、装備揃えたほうが良さそうだね」
これから、情報収集と所持金を稼ぐため各地を転々することを考えると、武具は必ず必要になる。そこで防具を先に買い、耐久力を上げようとしたのだが、そこで二人はグレイをちらっと見る。
「修哉は...防具いる?もう体が防具みたいなものじゃん?」
見てみると、服の上からでもわかる程のエイトパックスが自己主張し、胸筋があり過ぎるせいで、腹筋が見えない。...うんこれはもう完成形だよね...うん
「いや、昨日の俺のこと見ましたよね?まぁ少しは、防具みたいなところが無きにしも非ずですけど、さすがに限度がありますって...」
「でもお前、ドラ○エ1のとき、素手で魔王殴り殺してただろ?そんな感じで鍛えたら行けるんじゃね?」
国民的ゲームといっても差し支えない、ドラ○エだが、素手で、しかも防具も一切着けなくてもレベルを上げれば倒すことも可能である。
当時グレイは「筋肉こそすべて!」という謎の旗を掲げ、
当時小学生だった彼は、その有り余る自由時間を費やし、2週間ほどでクリアしたらしい。
単純に、化け物である。
「いや、あれはレベルが上がったら性能が確定で上がるからいけるんであって、あくまで今回はTRPGなんだからよ、成長判定が出なかったら筋肉は増えねえし、そもそも筋肉自体成長判定ないだろ」
「いやそこをなんとかさ、鍛えるとかしてさ?」
「なんで本人が疑問形なんすか...」
頭に疑問符を浮かべながら、手を合わせ、本気でいけると信じているシャニ、そんな彼女の姿を見てため息を吐きながらも、満更でもなさそうなグレイ、話が最後まで行ってないことに気付かず 一人、前を歩くミレイ。
「うん、このままだと話が進まないんで、取り敢えず全員分でいいか、って二人ともなんでそんな遅いの?」
後ろを振り向くと、二人と20メートルほど離れていた。徐々に声が大きくなっていたのはそれが理由か。
「いやお前が速すぎるだけだからな?DEX値幾らだよ」
「ざっと14...位だった筈」
「うん、修哉の筋肉も化け物だけどさ、健斗のDEXも十分おかしいよね?お互い様だって。
ほら私その値9だよ、9」
「俺も11位だからよ、少しはペース遅くしてくれね?追いつけなくなる」
「いやそんなに速くしてるつもりはないけどさ...うん善処する」
「その言い方は信用ならないけど...えっと...これって信用振ってるの?」
「信用...長年の付き合いで信用値上昇...99以下成功...100...
そうシャニが口に出すと、脳内にダイスの結果が流れる。
ファンブルだったせいか、シャニから見るとミレイがとんだ嘘つきに見えてくる
「...なんか、健斗が大嘘つきに見えてきた...」
「100ファンって...うわー、うん、お疲れ様としか言いようがない。うん。」
反応からするに、顕著に効果が出ているのはシャニだけだが、修哉からも少しそんな空気が感じるのは、100ファンの余波だろうか
「...これ何ラウンド続くんだこれ?」
ラウンド[1時間/ラウンド]が経てば効果が切れることがわかっている為、冷静にラウンドを決めるダイス1D10を決めると、最小である1が出た
「布津那先輩...って言っても信じてはくれないか、修哉、布津那先輩との会話の仲介してくれない?」
「まぁ仕方ないよな、俺はちょっとは不信感は沸かないでもないけどよ、分かった」
修哉が隣のシャニに説明すると、一瞬顔をムッとしたが一応聞く耳はグレイにはあるそうで、頷いていた
そして歩くこと二十分、ミレイがクマ型魔獣の皮を売りにきた武具店にやってきた。
「御免くださーい!」
大声であの店主の名前を呼ぶと、奥からすぐにやってきた。
約束通りに連れてくると、少し強面店主の顔の口角が上がる、この仕事さえやってなければ、恫喝か何かと勘違いされることこの上ない
「ちゃんと、来ました...って...えっと名前聞きましたっけ?」
「そういや挨拶してなかったな。俺はこの鍛冶屋のオーナーやってる『グラシャ』ってんだ。
そいつにいい素材売ってもらったからな、ちいとばかし、あんたらには期待してるからよ!」
腰に両腕をつけ、仕事でついたであろう立派な腹筋を張る。
「では、僕たちの説明を。自分はミレイって言います、そしてこの筋肉ダルマがグレイ、こっちの一瞬、顔は令嬢に見えなくもないのがシャニって言います、これでも全員二十後半です。」
「一瞬見えなくもないってどういうことかな、かな!」
「...あ、まだ効果きれてなかった」
詰め寄り、ミレイの耳朶を思いっきり抓るシャニ、STR値が低い彼女なので痛くも痒くもない。
しかし、そんな彼女の背後に怖い何かが見えるのは、きっと気のせいだろう。
修哉がまぁまぁとシャニを宥めていると、グラシャが大きな声で笑い出す。
「ハッハッハ!お前ら仲がいいんだな!そうかそうか、ならパーティー組んで冒険者ってのも有りなわけだ」
そしてグレイの近くによると、胸囲の厚さと筋肉を叩くすると少し考え込む。
「...結構、こいつ、がたいが凄いな、で全員分の装備を見繕えばいいってわけか?」
「そうですね、話が早くて助かります」
「わかった、ミレイとシャニっていう嬢ちゃんは店の方ですぐ用意はできるが、こいつ用の防具を準備するのに時間がかかりそうだな...戦闘スタイルはどんな感じだ?」
グレイが店に立てかけてあった双剣を見ながら答える
「俺は完全にタンカーとして体でぶつかっていくんで、全身に装備があると動きにくいですね。
細かく動いて切り裂くみたいな感じが一番いいかもです」
「なるほどな...わかった、少し高くなるかもしれねぇが、手持ちはあるか?」
そういいポケットにある銀貨を取り出し、手渡す。
「...15,16、16枚か、なんとか足りそうだけどよ、全財産ってわけじゃないよな?」
「一応、冒険者ギルドの方に残りの素材があるんで、それが今の全財産ってところですね」
「そうかそうか、なら大丈夫だ、なんたってあれは『ブラックグリズリー』だからな。
ざっと大金貨5枚ってところだ」
グラシャの発言に唖然とする三人組、さすがに驚くことには慣れたので、口は開くことは無くなったが、値段に驚き反応は遅くなってしまう
「...ん?どうした」
「...あ、いやなんでもないです」
「そうか、特注にはなるが、武器が武器だ、手で収まるような武器なら一日で作ってみせらぁ、明日また来てくれ、その時に防具も一緒に渡す。」
「ありがとうございます、で値段のほうは...?」
三人分の武器と防具一式となると相当な値段になると思い、銀貨16枚もあるとはいえ限度がある。
「大丈夫だ、俺も結構これでも普段は暇してるからな暇、安くしとくよ」
「ほんとに迷惑かけます...ありがとうございます」
「いいって事よ、でも今回で慈悲は終わりだからな、次からはちゃんと金貯めて来いよ?」
「私のほうからも、ありがとうございます」
そういうとシャニとグレイは頭を下げる。
そんな二人を見てニカッとわらうと、鍛冶場へと消えていった。
「...グラシャさんって怖い顔してるけど、ほんとにいい人なんだね」
「そうですね、修哉の話したら銀貨もおまけでつけてくれましたし、人はやっぱり見かけによらないって、心底思いますよ」
そんな二人に比べグレイは、鍛冶場に消えたグラシャの方向をずっと眺めていた
「どうしたの修哉?」
そうシャニが聞くと我を取り戻したように八となって二人の方向を向き、苦笑いを浮かべる
「いや特になんもないけどさ、なんか男気があるのか何なのか、ギャップにちょっとやられてな...」
「そういやお前そういうの弱かったもんな」
「修哉も頑張ってそんな尊敬できる人になりなよ」
「いや、脳筋の俺には一生無理っすよ」
「それもそうだな」
「いやそこは、できるって否定しろよな」
そういいミレイの肩をこずく。
そうして次は冒険者ギルドに向かう一行だった。
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