第五話 え...そんなに?

門の近くから街中に入ろうとする途中で、チラチラと他の現地民たちの目線に晒されながらも、異世界ではお馴染みの冒険者ギルドを探す


「...誰か趣味技能ポイント余ってたりしない?」


街中である店の前に飾られている、街の地図的な看板を前に布津那が呟く


「キャラメイク時に全部振り切ったけど、言語は10しか振ってない...」


「...?俺は違う言語に70振ってるぞ」


「「多すぎない!?」」


いきなりのびっくりした声で通行人たちが振り向き、背中に背負っている熊らしきものを見て、一瞬驚くような顔を見せるがそのままいつものように歩き出す。


「...いつも思うんだけど、修哉って極振りする癖ってない?」


「確かに言われてみればそうですね」


そんな気づいていないようなそぶりを見せながら、ごく自然にダイスを振る


「...1D100、70以下で成功...01...........大成功クリティカル...一時的な理解でしたが

三人が一瞬で理解したこととします...」


すると今まで見ていた看板の異世界語が何故だか今までこの言語で生活していたかのようにすんなりと頭の中に入ってくる。


それにしても有難いことに自分達まで効果が回ってきた。しかし、いつもより流暢に話しているように聞こえたのは気のせいだろうか...


大成功クリティカルの中でも滅多に出ない最小値でのクリティカル、実際のTRPGの卓でもただのクリティカルよりもいい効果が受けれることがある。

今回で言うと三人ともに効果が連結したことだろう。


「1クリ!?ホントに?修哉、スゲーじゃん!!」


「天才だったっけ?お前って...」


「先輩そんなキャラでしたっけ!?」


普段の布津那のキャラからはで無さそうな興奮度合いと、声遣いから少し戸惑う健斗だったが、修哉のでかした事に、普段の少しツンが入っている一言も毒気が抜けたように素直な称賛が出る。


「これでやっと目的地に行けるね。えっと...現在地は...」


そう言い看板を現在位置を探すため下から舐め回すようにみる


「この部分じゃないですか?」


そう健斗が指差したのは看板のほぼ左上の部分で、その上に第一区画と書いてある

全体を客観的に見てみると、さっき三人が入ってきた場所は街の出入り口で一番大きい第一関所という場所だった。


第一区画は住宅街で中〜上級ほどの宿や娯楽施設

そしてこの場所は冒険者や商人が出入りする第二区画、

他にも領主とそれに連ねる者たちが住居を構える第三区画がこの街の全貌だ。

目的地である冒険者ギルドは今いる第一区画の反対の第二区画目の右下にあった


「取り敢えずこっから第二区画まで移動すればいいだな」


「うへぇ...ほぼ反対側じゃん、俺疲れたんだけど」


「最後の辛抱だって、ほらファイト!」


そういうと戦闘の疲れと荷物運搬の疲労が合わさり、少し疲労困憊気味になっている修哉の背中をバシッと叩き喝を入れる


ずれ落ちかけている獲物をもう一度ちゃんと背負うと移動を始める。

目的地に着いたのはそこから十五分後だ。


目前の古き良き雰囲気を出す扉を開け中に入る、今は昼刻なので中に居る人はテーブルに腰を落ち着かせ酒を飲んでいたりと、ピーク時ほどではないだろうがそこそこの賑わいを見せていた


やはり見慣れない顔ぶりだからだろうか、たまに鋭い目線が気配を感じさせない程度で飛んでくるが、別段特に気にしているわけでもない。


入り口を左に曲がり斜め奥に向かう

受付窓口が三つ並んでいるのだが、その内二つは遊園地である手元だけが小さく開いているタイプで、今向かっているところが、一番その奥。

窓硝子を取っ払っており、且つ一際大きい窓口で受付が腕を筋肉で包み込んだ厳つい男性が受付をしていたからだ、どう考えても解体業のその人である。


「すみません、解体してもらいたいんですが、お願い出来ますか?」


「おうよ!...ん?最近見ない顔だな新規か?」


「いやまだ冒険者登録はしてないんですけど」


荷物を台の上に乗せると少し顔を顰め、少し疑いのような目線を見せる


「何か不味かったですかね...」


不審がられたので少し語尾が弱々しくなる。


「...んにゃ、特にどうってことは無い。最近お前たちのような登録を済ませるまでに、小型犬ぐらいの小さい魔物を狩ってくる輩達がいるからな。

ここまでの大物はその中で見たことないしよ、初期の奴らにしてはこれ、結構討伐難易度的に難しいんだぞ?」


「そ...そうなんですね」


冒険者とこの世界で問えば、『武器、防具、パーティ』の三つが揃って冒険者を初めて名乗り、

小さなものから討伐なりを始めるところが、

どう見ても服装は一般人の私服、武器も防具もしていない三人、(一人は筋肉で武装している?)

が体よりも大きい魔物を仕留めたと、普通に考えてあり得ないことに


「でも俺らはそんなことは管轄外だからな、そういう細かいところは騎士どもに任せてりゃいいんだよ」


どうやら見ないフリをしてくれるらしい。


「なんか色々とすみません迷惑かけちゃって... あの、すみません...今持ち合わせがなくてちょっとだけ即現金でもらってもいいですか?」


そう一言謝ると解体屋のおっさんは、腕を軽く上げて「いいって事よ」と気にしないでいてくれた。


解体の仕事にかかろうと奥に入ろうとすると、思い出したかのように新規冒険者登録の場所を教えてくれる。どうやら一番入り口の手前側のところらしい。


窓口手前まで行くと、受付嬢をしていたのは二十代の美人で一瞬鼻の下を伸ばすが、布津那がそんな二人の脇の下の皮の部分を強く抓り、笑っているのだが目が笑っていない顔で、


「ほ、ん、だ、い」


と急かしてくる。背後に白い仮面の何かが見えるが気のせいだろう、いやきっとそうだ、そうであって欲しい...


「新規登録でお願いします」


「はい新規登録ですねー、ではあちらの机でここに三人方の名前と、パーティーならその名前も記入お願いしまーす」


そういい机の下の棚から、登録用の紙3枚と黒い皮で閉じられた小さいシステム手帳のような物を差し出す。


「これは?」


「これはですね、新規登録者の人に必ず渡している規則をまとめたものでして、紛失しても別に問題はありません。ですが、身元確認や緊急時に医療機関の施設を借りれたりと、いろいろな特典もありますので、大事に保管することをお勧めします」


二人に紙と手帳を先に手渡し先に書いておくよう伝えると、パラパラとその場で手帳を捲る

特筆するようなことは書いていないが、注意点や禁止事項についてだ。


この世界の冒険者ギルドというのは唯の素材買収所のようなところで、依頼を受けてそれをこなすというものではなく、自分で獲物を持ってきてそれをここで解体、売却をするというのが主な仕事、数をこなしていればいずれ知名度があり、パーティー別で依頼が来たりも偶にするらしい


そんなことを受付嬢から説明を受け、冒険者登録の紙を書いている二人の元に戻ると、二人とも

何やら真剣な顔で一つの空白のマスの前で筆が止まっていることに気づく。


「どうした?何やら真剣そうな顔してるけど。」


「いやよ健斗、名前記入は問題ないようにこの姿のキャラの名前の方で書いたんだけどよ...」


そういい頭をガリガリと2、3度掻くと唸り声を出しガバッと顔を上げ諦めた表情で健斗に助けを乞う


「「パーティー名どうしよって...」」


「なるほどな...」


ここで、二十代後半に手をかける寸前の三人は頭を悩ませる。


「普通にTRPGっぽいやつに関連付けて考えたらどうよ。」


先に口を開いたのは健斗だ


「最初はやっぱりこの三人だし、

そんな感じのやつにしようかなって思ったんだよ?だけどね、そんなかっこいい名前のやつを使うと思うと、やっぱり神話生物ぐらいしか浮かばなくて...ほらやっぱり...不吉でさ。」


クトゥルフ神話TRPGにおいて、神話生物は文字通り神様そのものである。

ゲームの本質上そんな奴らと真っ向勝負するのは=死を意味する為、

基本的には起こっている謎を解決し勝負をしないことを目指す。

そんな神様達を名前にするのは不吉なのだ


「...まあ確かにそうですね、仕方ないですけど一旦今日は仮の名前にでもしときますか...

『TRPG攻略組』とかそんな感じで。」


「賛成、俺の頭じゃ厨二的な名前しか出てこん」


「私もそうするね。なんか思い出したくない思い出だし...」


そう言い二人とも遠い目をする。こんな時はあまり触れないでおくことが大切だと思う健斗だった。

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