第一章 異世界ロールプレイ
第四話 脳筋は無理をしたがる(?)
異世界の平原に下されてから約三十分、三人はオオカミの群れに追いかけられていた
「っくっそ!またさっきより増えてる!先輩、DEX上昇掛けれますか?」
健哉にお姫様抱っこの姿で担がれている布津那が二人に俊敏魔法と呼ばれる『マジックポイントを消費する魔法を発動しようとする
すると独りでにダイスがポケットから飛び出し、正六角形の盤面に転がる
「...先ずはDEX上昇魔法があるかの幸運ロール、1D100、 70以下で成功です...」
すると独りでにダイスがポケットから飛び出し、正六角形の盤面に転がる
「...24...通常成功...そのまま魔法成功かのロールに移ります...63...通常成功...DEX値を一時的に、3上昇させます」
サイコロが振り終わり、アナウンスが切れると同時に身体がいつもに比べ軽くなったような気がすると、先ほどより俊敏に動けるような感じがした。
「...おお、はやい!」
「よし!このまま突き放すぞ!」
布津那の魔法と自前の体力で、オオカミの群れとの距離をみるみる離していき、
地面に手をつき、二人が息を整えるのはそこから10分後の事だった。
「二人とも大丈夫?」
元々あまり体力がない布津那は、追いかけられてすぐに健哉に持ち上げられたため、二人よりも遥かに体力のある顔で二人の肩を優しく叩く。
「はぁはぁ、っ、はい何とか大丈夫です」
「...よく、お前、あのスピードで、逃げれるよな、はぁはぁ」
姿が変わり、TRPG内のチートな体になったとはいえ、約時速40キロも出せば二人の体力は、雀の涙ほども無くなった。
何故群に追いかけられたのかというと、下界に下された後、行く宛が一切ない三人衆はとにかく近くの街などを目標に『ナビゲート』という技能を使い、方向を定めようとしたのだが、見事に三人とも失敗、仕方なく平原を東の方向に進む。
道中も定期的に『ナビゲート』を使うが、4回目となる時に我らが「ダイスに嫌われた男」こと健斗が「97」という数字を出しファンブル《大失敗》。ちょうど広葉樹林が生茂る森に差し当たったこともあり、其処から狼の群れが飛び出し今来た道を猛ダッシュで引き返していたというところだ。
「...でもよ、お前がファンブルだしたらよその後大体成功するっていうオチだろ?
もう一回引いてみてくれや。」
修哉が地面にあぐらをかき後ろに手をついている健斗のポケットを指差す
「ダイスロール」
気怠そうな雰囲気を醸しながら『ナビゲート』を使用、結果は
「...04...
すると健斗の頭上1メートルほど上に、半透明の緑色をした雀ほどの大きさの鳥が現れその場で羽ばたき始める
「ほら、やっぱり出たじゃん」
「うーん、なんでだろうね。もしかして女神様が言ってたギフト《贈品》ってものなんじゃない?」
「それならもっと役に立つ物にして欲しかったですよ...なんか成功確率が上がるやつとか」
健斗はこうは言っているが、内心少し嬉しかったりもする。
TRPG中では必要な時に望んだ数字が出ないという事例が度々発生し、あまり必要ではないという時に、
「
全然役に立つくないか?」
「まあ確かにTRPGの醍醐味が消えちゃったような気がするけど、命は一つしかない時に失敗する可能性が無くなるっていうのは良いかもね。」
そんな二人の反応に口では嫌そうな顔をしている彼だが、先程も言ったように内心嬉しいので眉間にシワを寄せるような事も出来ず、悩むようなそぶりをしながらも苦笑を浮かべる
そろそろ移動しようと全員が動き始めると魔法鳥が西の方向に飛行し始め、案外そのスピードに足を早める三人だったが、
「...やっと着いたね」
中でも体力が比較的少なく、唯一の女子メンバーの布津那が少ししんどそうな声で、二人に問いかける。実際疲労感はほとんど無いのだが、あまり普段から走っていない彼女からすれば、メンタル的な方の問題だろう。
「そうですね、魔法のお陰で結構時間も短縮できましたし、この調子で今夜の泊まるところまで見つけたいんですけど...あれ修哉は?」
辺りを見渡すと先程まで布津那の後ろで走っていた、修哉の姿が見当たらない
「本当だ!さっきまで後ろについてきてたのに、あれ?そういえば途中で凄い打撃音が聴こえたような...」
「...まさかあいつだけ魔物に襲われたとか?」
「わからない、途中から無心で走ってたから...」
声が少しずつ萎んでいき、申し訳なさそうに少し俯き加減になっていく。
「じゃあ少しここで待っててください、僕は来た道を戻ってあいつがどこに行ったか探してきます」
「でも
「大丈夫ですよ、これでも一端の元サラリーマン、何とかなりますって」
そうニコッと微笑むと、布津那は少しすまなそうな顔を浮かべ「では...お願いします」と言う。
そう言う彼女を背中に来た道をランニングほどのスピードで、体力を持たせながら戻ること約二十分、緑色をした鳥を側に飛ばせ、遠くからでも分かるくらい筋肉に包まれている人型で、体を超えるほどの大きさの何かを背負っている姿が見て取れる。そんなん人物は一人しか知らない。
「修哉ーー!!」
声を張り上げ大きく手を振ると、その人も腕を頭の高さほどまで上げ健斗の姿を目に入れると安心したかのように、口角を上げる。
本人だと確認が取れて、いてもたってもいられずダッシュでその下に駆け寄り容態を確認すると、腕から血が滴っており、脚にも浅くではあるが傷がついていた。
「っ!大丈夫か?今応急してやるから!」
彼の荷物を一旦地面に下ろしその場で安静にさせ、服の端を引きちぎり応急手当を開始する。
「...1D100...40以下で成功...15...通常成功...1D3の回復値を決定、2ポイント回復...」
服を包帯替りに未だに薄く出血している腕に圧迫しながら巻き付ける。すると少し苦しそうな顔をしていた修哉の顔色が少しマシになる。
「...センキュー、出血が多くてよ、結構キツかった...ほらこれで路銀は稼いだぜ?...」
そういうと、背中に背負っていた大きな熊型の獲物をドサっと置く。
すると気をずっと張っていたせいか、はたまた体にある傷が言えたことに安堵したのかその場に重力に任せるように座る。
「...馬鹿かお前は...それなら俺たちに言って一緒に戦えば良いだろ?...心配したんだぞ」
そういうと修哉が腕を伸ばし拳を作る、それに合わせるように拳を合わせる。
そうして安心したのか、何回か深呼吸した後息を深く吐き、足に力を入れ立ち上がる。
「考えてみれば確かにそうだな、思いつかなかったわ」
「いや普通気付けよ」
そんな彼を見て心配はしている健斗だが、彼の表情がいつもと大差ないことに安心しながら、背負ってきた獲物を持ち上げ、彼にも肩を少しだけ貸す。
荷物のせいでスピードは五分の一ほどには落ち込んだが、傷の痛みにも慣れてきたのか少しだけだが代わりばんこで背負いながら進んでいく。
「そういえばさ、お前がこれ背負ってきて何分ぐらい歩いてたんだ?」
熊のような見た目をした獲物に姿を覆われながら、肩からダランと照れている腕を上げ話しかける
「...そうだなあ、お前たちと別れてから戦闘して...そっから三十分は歩いてたか?」
「三十分って...ごめんな、気付いてなくてよ...」
「いや良いんだよ、俺自身、そんなにまだ死にそうって思わなかったからな!」
そういいサムズアップしようと拳を作るが、腕の傷が痛むのか、少し眉間にシワが寄る。
「っ!」
「そんな無理してやらなくてもいいんだぞ?」
「大丈夫だ問題ない。」
「いや問題しかないだろ。」
脳筋発言を修哉が、そしてそれをつっこむ健斗。
そんな二人も痛々しい出来事を軽口しく話していると、街の出入り口の大きな門がが見えてくる。
その門の真ん中で心配そうにこちらを見ている女性が見えてきたところで、二人に少し心からの安堵が体を廻る。
「...なんか死にそうだったけどよ、ただいま、先輩。」
体にある傷たちを見て少し心配そうに駆け寄ろうとするが、そんないつもの修哉の元気そうな顔を見て安心した表情だ。
「お帰り、二人とも。」
姿が変わり地球の頃に比べ、元々可愛らしく少し大人びた雰囲気の彼女のその笑顔に、二人とも心に漣が立つがいつも通りの笑顔を向け街中に入る。
少し周りの目線が立っているが...
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