第三話 新天地へ

それから女神さまの話が10分ほど続いたが、要約すると

さっき言っていた通りこの世界のダイスの目を元に戻してほしいというもの、

自分はこの世界の基準であるため支援は余程のことがないとできないということ。この二つだった。


いや確かにこの女神様の言う通り、世界を救うために呼ばれた私たちが生きていく上で、この手のやり方では介入できない理由はよく分かった。

だけど一切の支援なしというのは、あまりにひどいと思うのだよね。


「あのー女神様、仰っている理由はよく分かったのですが、これからその世界に下される私たちとしては、今の状況じゃ到底生きていけないと思うのですよ、何かそれに対して何かありませんかね」


「その点については大丈夫です。世界に下ろす時に、この世界の住人たちと同じよう、贈品ギフトを授け、もう一つそれとは別の特殊技能を授けます。ですがこれに関してはダイスの目によって、使えるものかそうでないかが決まりますのでご了承ください」


そう言うと女神が目を閉じ祈りを捧げるように手を重ねると、三人の体が光に包まれ、先ほどまでの姿とは違う物になっていき...


「...マジで?」


眩しさに目を閉じ、少し経ち発光が収まっていき視界が戻ってくると、健斗が驚き、戸惑いの混じったような声を漏らす。


そういい健斗の方を確認すると、社会人になってからは短くしていた黒髪が少し耳に掛かるくらいに、もう直ぐアラサーに入ろうとしていた少し落ち着きのあった顔は、燦々と光る太陽のように活発そうなイケメンに、このような姿で大通り歩こうものなら直ぐに囲まれるであろう。


それにしても何処かでこんな姿見たことがあるような...あ。


そんな考えが頭をよぎり少し記憶を辿ってみると、健斗がミレイというキャラを制作する上で、見た目のパラメータがとてつもなく高かったのを思い出す、

確か、見た目の良さを表すAPPは15だったっけ。


「健斗お前見た目すごいことになってるぞ!」


「うっわ、お前も人のこと言えるかよ...」


健斗を指差し、声は出してはいないが、不敵な笑みを浮かべ、内心大爆笑している修哉は全身が筋肉に包まれており、身長はもともと高かったがそれにまた十センチ程のびており、簡単に言い表すと肉だるまである。


「布津那先輩も!ってうおう...」


「先輩、ちょっとこれは想像以上に可愛いですね...」


二人が感嘆するのも仕方ない。

布津那の姿は白に緑かがった背中の真ん中まで伸びる長髪、身長は160センチ半ば程だが、蒼く深い色をした宝石のような目、整った顔立ちで天使と言っても遜色ない美しさだった。


「ふーんどうだ、私も作者としてじゃなくても、ちゃんとキャラシート作ってたんだよ?」


ふんすっ、っと効果音がつきそうなドヤ顔を腰に手をつきながらする。


「俺はずっとサークルに大学の時に入り浸ってましたからね、センパイのキャラの設定は聞かされてましたけど、健斗はちゃんとあのとき勉強してたからセンパイのキャラ見て驚いたろ?」


「確かに勉強はあの時頑張ってたけど、僕も先輩と結構な数プレイしてた筈だろ?なのにこのキャラは初見だぞ?」


「いやね、一回ゲーム中に、妖怪一足りないさんが出て、キャラロストしちゃって、その時に持ち合わせのキャラがこれしか無くて仕方なく使ったんだけどね、普段は、新しくプレイする時は毎回作り直してるから、君たちは見たことないんだよ」


「そうですか、それにしてもAPP値すごい高そうですけど、さっきの話じゃこのキャラそれ以外めっちゃ低いんじゃ?」


健斗と修哉はTRPGをプレイする上で、クリア報酬として、

『技能』『ステータス』の二つが初期に比べ、とてつもなく成長しており、

普段プレイする上でほぼ死なないレベルで強いのである。


しかし先程の話だと、先輩がその度にキャラを作り直しているということなので、APP値という、見た目の良さを表す単位が15という現実リアルだったら

二次元のかっこいい、又は可愛いキャラレベルに良いことなどから、

他の『ステータス』値が低いのではないかと心配になったのである。


「大丈夫、一応修哉ほどの肉ダルマほどではないけど、ちゃんと他の卓で筋肉値も、クリア報酬で強くなっていってるから!」


「肉ダルマって...流石に先輩でもひどいっす」


「いや仕方ないだろ、そんだけ筋力にステータス振ってたら。もしかしたら今なら林檎、指だけで潰せるんじゃ?」


「いや流石にスコマでは無いない」


林檎を握力だけで潰すとなると、コツとか技術も少なからず関係はしてくるが、店頭に並んでいる一般的な大きさのものを使うとなると大体70㎏程の握力が必要となる。


そんなことは置いといて閑話休題


見た目の変化で戸惑ったりするのも、三人で少しじゃれあっているうちに慣れ、そんな三人の会話が少し間隔が開いたときに女神が口を開く。


「そろそろ下界に下ろしてもよろしいでしょうか?」


「あ!すみません、そういえばこの世界でもし死んでしまったら、地球と同じように私達も亡くなるんですかね...?」


異世界での死、よくあるラノベとかでは、完全に体がそちらの世界の住人として生きる為、現世である地球の自分は居なくなるというのが定石なので、もしそうなのであれば、これからの行動で無理をしてもいいかという余裕の部分に差が出てくる。


「そう...ですね、その事については答えることが出来ません。しかしこの世界はダイスで全てが決まる世界、相当運が味方してくれたのであれば、不可能はない、と言っておきましょう」


「やったね二人とも!頑張ればまた地球に帰れるって!」


「...うん、まあ、そうですね?そうなのかな、うんきっとそうだ」


うんうんと納得している様な不安そうな顔をして一人唸っている


「...?なに健斗はそんなに首を傾げてるんだ?」


「...いやな、帰れるってことを知れたことはめっちゃ嬉しいんだけどな...」


「それがどうした?」


脳筋な修哉はそこに何か問題があるのか?のような表情をし、少し感の良い布津那は健斗が心配していることに気がつき、「確かに」みたいな苦笑を浮かべる


「いや、ほら帰れるのは帰れるらしいけど、ダイスの目がだろ?

TRPGでもそうだけど、珍しいものに当たる確率って必然的に低いわけじゃん、

だから地球に戻るっていうダイスの目も、百面ダイスで3連続『1』を出すぐらいの低確率を当てないといけないんじゃないかって思ってさ。自分たちダイスの目に嫌われてるっていうか...そうだろ?」


健斗が心配している内容を告げると修哉はそんな事は気にも止めていないのか、

笑みを深める


「...なんだよ人が真剣に心配してるっていうのに」


「大丈夫だって!そんな時はこの筋力でダイスの目を狂わしてやるから!」


と言いサムズアップする


「全く、何時になったらその脳筋な考えが治るんだろうな...」


とため息をつくが、その顔は先程までの心配事が少し吹っ切れたのか、口角がほんの少し上がっている。


「ねー仲がいいからってすぐ友情の空間作らないでよー、私の居場所がなくなっちゃうじゃん」


「ははっ、すみません善処します」


「その言葉、今までに何回も聞いてるし、マシになった覚えがないんだよー」


頬を少し膨らませ二人の顔を交互に、じと目で訴える


そんな布津那を見て、二人は定番のノリだがいつもと違う彼女の姿を見て少し笑ってしまう


「...ではそろそろ準備は整ったでしょうか」


聖母のように三人を暖かい目で見ていた女神が、確認をする


「はい、覚悟を決めました、ばっちこいです」


「二十代後半で、そんな言葉使う奴もういないだろ」


「...お前なぁ——」


健斗がその言葉に反応しようと思うが、布津那に止められる。


「——もう二人とも!これ以上話を伸ばさないでって...はい、いつでも行けます」


三人それぞれ反応をし、健斗はキリッとした覚悟を決めた顔を、

修哉は彼が使った言葉をいじりながらもこれからの旅に想いを馳せ、

そんな二人を宥める年長の布津那


「ではダイスで全てが決まる世界へご案内致します、どうか、御武運を...」


そういうと三人の視界が暗転し世界へと旅だって行った。

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