エリア51

 エリア51に勤務するようになって、しばらくの間はむしろジョンの超常現象への懐疑的視点は強化された。

 やたらと滑走路が走るこの場所で、彼が従事した仕事は主に新型軍用機製造の手助け程度だったからだ。


 この日も、あるはずもない陰謀を求めて基地に近付き、一般人は接近を禁じられているために遥か遠くで兵士に追いやられるUFOマニアを双眼鏡で眺めながら、ジョンは嘲笑っていた。


「まだバカな連中だと思うか?」


 突然隣から声が聞こえ、双眼鏡から目を離したジョンが顔を向けると、そこにはいつの間にか将校服を着た空軍大佐が立っていた。

 ジョンの才能に一目置いてくれている人物だった。


「ええ」ジョンはまだにやにやしながら答えた。「だってありもしないものを追い掛けてるんですよ。滑稽じゃないですか」


 しかし大佐は真顔のまま青空に飛び立つ戦闘機を眺め、しばらく何事か考えている様子だった。


「……大佐?」


 そこで怪訝に思ってジョンが彼の顔を覗き込むと、大佐はひとつ深呼吸をしてから、改まった態度で告げたのだ。


「実はなジョン博士、その件で相談があるんだ。唯物論者であり、優秀で信頼できる君を見込んでな。まずは、わたしに付いてきて欲しい」


 そんなことを言われたジョンは、わけもわからないまま、大佐の後に付いて基地内に戻ることになった。


 それから大佐は、これまでジョンも乗ったことのない、基地でも大佐のような高い地位にある者たちだけが持っているセキュリティカードがなければ使えないエレベーターに彼を案内し、地下へのボタンを押したのだった。


「い、いったいどういうことですか?」


 鉄の箱が降下を始め、ジョンがやや緊張しながら問うと、大佐は鈍重な駆動音の合間を縫って切り出した。


「……ジョン。これまで黙っていてすまなかったが、実はロズウェルにはあの日、本当にUFOが降ってきたんだ。この先に、そいつがある」


 それを聞いてジョンは一瞬唖然としてしまったが、すぐに気を取り直して笑った。


「またまたご冗談を」


「いや」大佐は真剣そのものだった。「これは事実だ」


 彼からの確かな気迫を感じてジョンが押し黙ると、間もなくエレベーターは停止した。

 どれくらい地下に潜っただろうか。扉が開くと、そこには申し訳程度に備え付けられた照明に浮かぶ薄暗い通路が、真っ直ぐに闇の奥へと延びていた。


 大佐の後に続いてジョンはエレベーターを降り、二人はそこを進んだ。ジョンは内心でまだ疑っていたが、深部へと潜るほどに、もしかしたら本当かもしれないという思いが沸くはめになった。


 なぜなら、通路にはいくつもの扉があったのだ。

 それぞれが、暗証番号、指紋認証、網膜スキャンなどをクリアしないと開かず、その奥にあるものの重要性を予感させたのである。

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