第4話 足も傷も

 カリヤおばさんの診察から三日後の今日。

 俺はついに外出を許された。


「背中の傷はまだ完全に塞がってはいない。それに、足も杖を突けば歩けるくらいになったというだけで、あと二か月は元に戻らん。くれぐれも暴れたりするんじゃないよ、クリス」と直接釘を刺された。


 全力で走り回れないのは残念だったが、それでも外に出れるのは嬉しいかった。

 あの日ぶりに、メリーとも会えるのだから!




「んじゃ、母さん。いってきまーす」

 俺は、玄関から、母に声をかけた。

「行ってらっしゃい。無理に身体を動かすんじゃないわよ。どこへ行くの?」

 家を出る前に、母さんに行先を聞かれた。

 俺は、満面の笑みで答える。

「決まってるだろ、メリーの家だよ」

 あの日から、今日で7日になる。

 こんなに長い期間会わなかったことなんて、メリーと出会ってから今までなかった気がする。

 早くメリーに会いたい。

 俺は、ワクワクしながらドアを開けた。




「おっ! クリスじゃないか! 元気になったのか!」

 村の広場を歩いていると村唯一の武器屋兼なんでも屋の店主、ロバーおじさんが声を掛けてきた。

「うん! もうすっかりピンピンだよ!」

「なんでもお前、あのメリーちゃんを守るために戦ったらしいじゃねぇか! 将来は英雄だな!」

 おじさんは俺の頭を乱暴にガシガシ撫でてきた。

「うわっ、やめろよおじさん!」

「はっはっは! いつでも剣が必要になったら言えよ! 英雄様に似合う最高の剣を、この村最高の武器屋であるロバーが見繕ってやるぜ!」

「最高って……、おじさんの店しかないじゃないか!」

「はっはっは、細けぇことは気にすんな! じゃあなクリス、足元には気をつけろよ」

「あ、うん! またねおじさん!」

 俺はロバーおじさんと別れ、再びメリーの家へ向かって歩き出した。




「英雄、か……」

 ロバーおじさんの言っていたその単語が、胸に響くのがわかる。

 英雄といえば、世界で一番有名なおとぎ話に出てくるものだ。




 みんなを救うことが夢の青年。

 彼は毎日のように鍛錬を重ね、やがて旅に出た。

 世界中のみんなを救うために。

 敵は魔物まもの

 おにけもの魔族まぞく、そして龍。

 彼の旅路は苦難や危機にまみれている。

 だが、その全てが誰かの為であった。

 彼の困難を笑うものは一人もおらず、彼を称賛する声だけがあった。

 彼は苦難を必ず越えて、人を救った。

 そうして青年は夢を叶え、物語は終わる。




「俺は、あんな英雄になりたいのかな……」




 ぱっと顔を上げると、そこはメリーの家だった。

 どうやら考え事をしている間に着いていたらしい。

 メリーに会える!

 そのことがうれしくて、胸が突然高鳴る。


「すいませーん!」

 俺は杖でふさがっていない方の手で、ドアをノックする。

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