第3話 目覚め

 目を覚ます。

 顔に当たる日の光がまぶしくて、うっすら開けても、光が目に入ると反射的に閉じてしまう。

 寝起きのぼんやりとした頭で、俺は理解した。

 あぁ。

 無事帰ってこれたんだな、と。




 しばらくして、頭もはっきりとしてきたので、起き上がろうとした。

 上半身を、今寝ているベットから起き上がらせようとして、少し体を曲げる。

「痛……」

 すると、激しく背中が痛んだ。

 俺は、起き上がろうとした体勢を、バランスを崩してベットに倒れ込んでしまう。

「ダメだこりゃ」

 起き上がることを諦めて、見慣れた天井を見つめる。

 俺が考えていたのは、メリーの事。

 そして、助けてくれた人影の事だった。


「メリーは無事だったのか……? いや、俺が無事だったんだし、メリーも無事に決まっている! それより、あの助けてくれたやつ。誰なんだろうなぁ……。剣持ってたし、騎士かなぁ……。カッコよかったなぁ……」

 独り言を言いながら、ベット脇の窓から見える景色を見ながら、ぼーっと、色々な考え事をしていた。




「あ! クリス、目を覚ましたのね!」

 俺がやっとのことで身体を起こすと、ちょうど母さんが部屋に入ってきたところだった。

「あ、うん。おはよう母さ――」

「よかった……、クリス。ホントに心配したよ……」

 母さんが、がしっ、と抱き着いてくる。


「うん……! 母さん。ただいま」

 俺は、母さんの顔を見て、初めて自分が無事、村に帰ってきたのだということを改めて実感した。

「って、痛い痛い痛い!」

 母さんの力が強いのか、背中の傷がとても痛んだ。

「あ、あぁ。ごめんねクリス。ついうれしくってね……。村にボロボロになって帰ってきてから、丸3日、目を覚まさないもんで……」

「3日!?」

 どうやら、俺はあの死闘から、3日も眠りこけていたらしい。

 実感はなかった。

 そりゃそうだよな、寝てたんだから。


「あ、ちょっと待っててね。薬師の先生呼んでくるわ」

「あ、母さんちょっと――」

 呼び止める暇もなく、母さんは部屋を出て行ってしまう。

 我が母ながら、慌ただしい人だ。


 しかし、3日か……。

 自分がどれほどの傷を負っていたのか、あの時は気にかけている余裕なんてなかったので、把握してない。

 3日起きないといえば、去年くらいに村の近くで起こった馬車事故のけが人が、それぐらい起きなかったはずだ。

 その時は、腕、足、肋骨、鼻の骨が折れて、本当に一命をとりとめた、といった感じだったのよく覚えている。


 薬師のおばさんが昔、ケガや病気で寝込んでいる期間が長いほどひどいケガだ、という話を聞いたことがあった。

 うーむ。

 そこまでひどかったのかと、自分で違和感を感じる。


 まぁ、おばさんが見てくれるなら安心だろう。

 俺は、楽観的に考えることにした。




「いやぁー、よくあの状態で生き延びたねぇ」

 薬師のおばさんは、開口一番そう言った。

「え、おばさん。俺のケガってそんなにひどかったの?」

「そりゃあ、ひどかったさ。もう目も当てられんくらいにボロボロだったよ。ベルフォメドがここまで運んでくれなかったら、お前さんどうなってたことやら……。あとおばさん呼びはやめろっていつも言ってるだろうが」

 そう言って、カリヤおばさんは俺を小突く。

 しかし、俺は、そんなことに構わず、ある疑問を持った。

「……え? 今、ベルフォメドおじさんって言った?」

 俺は困惑した。

 ベルフォメドおじさんの名前が何で今出るんだろうか。


「あれ? 知らんかったのか? お前さんを助けてくれたのは、ベルフォメドだよ。メリーの父親さ」

「マジか……!」

 びっくりした。

 ベルフォメドおじさんが助けてくれたのか。

 後でお礼を言いに行こう。


「ホントに知らんかったのかい」

「あ、うん。暗かったし、意識も消えかけだったから、わからなかった」

 ということは。

 あの剣を握っていた人影は、ベルフォメドおじさんだった、ということだ。


 俺はおばさんの説明を聞いて、1つ気になったことがあった。

「おばさん、1つ聞きたいことがあるんだ」

「なんだい。あとおばさんじゃなくて、名前で呼びんしゃい」

「あ、うん。カリヤおばさん、ベルフォメドおじさんの仕事って、何?」

「それも知らんかったのかい。この村の有名人だよ、ベルフォメドは」

 カリヤおばさんは、1つため息をついて、言った。


「ベルフォメドはね、騎士さ。しかも、王国騎士。ライア王国の王都で働く、数少ない優秀な騎士の1人なのさ」

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