第29話 養父殺し
「董卓様!」
護衛の兵士が叫びながらやって来た。
「どうしたのだ?」
董卓がその声に反応しながら振り返った。
「丁原が、約千騎の兵を引き連れこちらに向かって来ました!」
「何故、丁原がここに来るのだ?どうしてこの場所がわかったのだ?」
董卓がそう言って驚いていると、地面に叩きつけられていた陸豪が笑いながら血だらけの身体をゆっくりと起こして言った。
「ははは。俺がおまえらを丁原に売ったんだ。董卓が呂布を唆して謀反を働く算段をしているとな。絹の反物を二反しかもらえないとはな。そんなケチくさい真似をされたから、やり返してやったのさ」
董卓は刀を抜くと、陸豪を袈裟斬りにした。断末魔の悲鳴を上げ地面に倒れた。
「匹夫め!」
吐き捨てるように言った。
「奉先(呂布の字)よ、ワシはおまえの新たなる(養)父になるのだ。ここで忠誠心をワシに見せてくれ。今ここには50騎ばかりの兵士しかここにはいない。窮地を救ってくれるのはおまえだけだ!」
呂布は黙って頷いた。
「わかりました。(養)父上」
呂布は、そう言って、丁原の兵士たちが向かって行った。董卓も斎勲健に礼を言うのもほどほどに後を追いかける。
「いいか?あの男は、靴を履き替えるかのように父親を変える。何度もだ。何度も同じ事を繰り返す」
斎勲健が見送りながら、大きな声でそう叫んだ。
「ギョッ」となって董卓が一瞬振り返ると、斎勲健がニヤリと笑った。
「呪術であの男の身体は鍛えられても、頭の中までは鍛えられないんじゃよ。ははは」
斎勲健は笑い声を残して、まるで滑るかのように洞窟の奥へ消えていた。
呂布は、方天画戟を突きつけながら敵陣に飛び込んだ。右方向から前に丁原の兵士が、矛を突き立て飛び込んで来た。咄嗟に空いていた右手で矛を交わしながら鷲掴みにした。そして矛を掴んだまま右手を上下にゆさぶり丁原の兵士を振り解いた。兵士が地面に倒れた。転倒した兵士を奪った矛で串刺しにした。兵士が「ぐえっ!」と言ってから口から血を吐いた。
「奉先(呂布の字)よ、貴様はここで何をしている?」
丁原が、驚きながら前に出て来て訊ねた。丁原の兵士たちが護衛のため、両サイドに着いた。
「建陽(丁原の字)殿、ご挨拶が遅れました」
そう言って地面に方天画戟を突き刺すと、呂布は丁原に拱手した。丁原も拱手して返した。呂布の改まった言い方に違和感を覚えた。
「奉先(呂布の字)よ、何を言っているのだ?」
「ご報告があります。仲穎(董卓の字)殿が、今日から私の新しい養父になりました。お別れの挨拶をしなければと思いまして」
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