第3話 屋台の主人

屋台の暖簾を潜り椅子に腰を下ろした途端、店主が言った。

「いやー、困ったなあ。お客さん、実はそろそろ店仕舞いをしようとしていたんですよ」

「遠方から来たんだ。すまないが一杯だけ引っかけさせてはくれまいか?」

「そうでしたか。仕方ないですね。わかりやした」と、答えて一旦は火を消した薪に火を入れた。しかし、関羽は飲み始めると一杯が二杯に、二杯が四杯にと一向に収まる気配が無い。さすがに屋台の主人も、困っつしまった。そこで酒の肴を切らしてしまった事を理由に帰ってもらおうと考えた。


「あいすいません。酒の肴を切らしてしまいました」

「そうか、主人。ここの酒はなかなか美味い。最初は一杯で止めようとしたのだが、一杯が二杯になり、ニ杯が四杯になってしまった。もうそろそろ帰ろうと思ってはいるのだが、最後にあと一品肴になるような物はもう無いのか?」

「はい。もうネタ切れです」

そう屋台の主人があっさりと答えた。関羽が寂しそうな顔になったはいいが、まだ一向に去る気配が無い。

「ぐいっ」と一杯盃で飲むと、すぐに注げとばかりに盃で催促をした。屋台の主人は、何か妙案は無いかと思いながら酒を注いでいると、いい案が閃いた。

屋台の主人が言った。


「酒の肴に、美味い肉なら手に入れる事が出来ますよ。この先数十メートルくらいの所にある肉屋の肉は滅法美味い」

そう屋台の主人が言うと、関羽は、何故それを出さなのかと思ったが、なるほど肉の値段が高くて出せないのかと納得した。

「肉の旨味は、飼い方や餌の配合の飼料にもよるから売値は高くなるはずだ」

「いいや、旦那。その肉はタダで仕入れる事が出来るんです」


「ほう。それはどうやるのだ?」

「その肉屋は、張飛という男がやっているのですが、いつも売れ残った肉は保存するために井戸の中に吊るして冷やしているんです。そして井戸の入り口には、大きな板で蓋をし巨石を載せて栓がしてあります。そしてその横に立っている看板には、こんな言葉が書いてあるのです」 

「どんな言葉だ?」

「『この石を退られる者、中の肉を持って帰っても良し』と書いてある立て看板です。しかし、張飛以外誰もその巨石を退かせられないので、実際にはタダでその肉を手に入れた者は1人もいないんですがね」

関羽は、長く黒い髭を右手で撫でながら店主の話を聞いていた。

「なかなかそれは面白い話だな。その巨石を外して、肉を手に入れるとするか。酒の余興には持ってこいかもしれない」

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