第4話 井戸の肉

張飛は、この界隈で力自慢で有名な男だった。その男が動かし栓にした巨石を退けるなんて、土台無理な話だった。

「では店主。その石をワシが退けて見せてやろうじゃないか。手に入れた肉の分配だが、ワシの肴にする分以外は其方にやろうではないか」

それを聞いて店主が苦笑いをした。この客に、程よく断りついでに言ったことを間に受けているようだ。

「無理無理、お客さん。誰も未だかつてあの巨石を退けた者がいないんですよ。結局は、張飛自身が巨石を動かせる男は俺様1人しかいないのだと自慢しているようなものなんだから」

関羽は、盃の酒を飲み干すと屋台の椅子から立ち上がった。


「その肉屋は何処だ?」

屋台の主人が出てきた。関羽の身の丈を見て驚いた。ゆうに2メートルは超えていた。屋台の主人で170センチ前後だが、横に並んだら大人と子供ぐらいの体格の差があった。主人が張飛の肉屋を指で指し示す。関羽が、市場の奥をどんどん進んで行った。そして店主が言っていた肉屋の前まで来ると、店には誰もいなかった。


粗雑な木材を組み合わせた屋台。木の看板には「肉屋」と書いてあった。その奥には、立て看板があった。看板には『この石を退られる者、中の肉を持ち帰って良し』と書いてある。その横には、巨石が板に載り井戸を塞いでいた。


「なるほどここか」

関羽は、奥に進むと石の前に立った。そして両腕を身体の前で互い違いに締めると全身の筋肉を鋼のように固く変化させた。そして目の前の巨石にしがみつくと、背中をのけぞらせた瞬間、200kgはあろうかという巨石がまるで発泡スチロールか何かで出来ていたかのように軽々と持ち上げると後ろに放り投げられた。


場内にまるで「ゴロゴロ」と雷でも落ちたかのように響き渡った。関羽は硬直化させた身体中の筋肉を解いた。

「どれどれ」

そう言って、井戸を塞いでいた板をどけて井戸の中を覗き込んで見ると、確かに井戸に渡した棒に見事な部位の肉が吊るしてあった。それを引っ張り上げていると、突然市場の奥から酒を今の今まで飲んでいましたという顔をした男が現れた。


「俺様は張飛。ここの肉屋主人だ」

「私の名前は関羽だ。あの汚いと字面の立て看板は、あんたが書いた物か?」

張飛はずんぐりとした体型をしていた。たまたま帰る途中に市場の自分の店の近くで飲んでいると、大きなドスンという音を聞いたので念のために店に戻って来たのだった。張飛は、驚いた。あの巨石が、まさか床に転がっているではないか?

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