第5話 140db(デシベル)の大音響

巨石が、サイコロのように床に転がり板がどけられ井戸の蓋が開き、関羽が今まさに肉を井戸から引っ張り上げようとしていた。

「おい、泥棒!」

「何をおかしな事を言う?この看板が読めないのか?」

肉を誰かに取られるために、こんな事を書いたのではない。誰もこの巨石を退けるなんてどうせ出来っこないと考えていたから書いたのだ。これで巨石を退かされ肉を持ち出されたのではシャレにならない。張飛は、あせりながら思わず関羽に話しかけた。 

「待て、待て。確かにそう書いたが、本当に持ち去ってどうする?」

「また否ことを。食べるに決まっているではないか?」

関羽はそう言って、井戸の中に落としている肉を引き上げた。


「そんな事をされたんじゃ、商売があがったりだ」

「こっちの知ったこっちゃないだろう?貴様が言い出した事だ。看板を見ろ!」


「まさか、俺並みの怪力の持ち主がいるとは想像もしていなかった。こいつは驚いたぜ!」

「約束だ。肉は貰っていく」

「待てくれ!ウワッー!」

突然、張飛が大声で怒鳴った。凄まじい大音声だった。

「ポチャン!」

関羽は堪らず両耳を押さえる。140dbの大声で叫ばれたので鼓膜が破れるかと思った。その瞬間、肉を掴んでいた手を放してしまい井戸の中に落ちた。思わず張飛が、井戸の中を覗き込んだ。

「うわあああ、馬鹿野郎!何をしやがるんだ!」

「おまえが突然、大音響で叫ぶからじゃないのか?」

関羽は、自分の鼓膜が破けていないか、何度も口を開けたり閉じたりしていた。


「俺様の声は3里先まで届くんだ。本気で吠えれば、お前さんの鼓膜なんてオブラートよりも簡単に破けていたさ。まだ手加減してやったんだ。それより肉をどうする?」

「知った事か。肉をこちらに渡さないつもりか?卑怯さに呆れて日が暮れてしまうわ」

そう言うと、関羽は鋼の身体になって張飛の腹に鉛の拳を撃ち込んだ。張飛が、もんどり打ちながら20メートル先くらいまでゴロゴロと転がった。張飛が、ピクリとも動かなかった。

「間抜けに本気を出し過ぎたか」

関羽は、全身が鋼になった身体を緩めた。張飛が死んでいないか近付いて確かめようと顔を覗き込んだ途端、張飛は関羽の腹を目掛けて飛び込み「ギョエー」とまたもや叫び声を上げた。関羽は、大音声から逃れようと顔を背けたため後ろに倒れながら2人は転げ回った。関羽は、これ以上張飛に叫ばれては堪らんと右手の腕を猿轡のように張飛の口にかました。張飛が必死に抵抗し関羽の腕に噛みつく。

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