第6話 劉備の母親

腕を離した途端叫ばれても困るので痛みに耐えながら張飛の口が開かないように押さえつける。張飛は、歯が抜けた年寄りのようにモゴモゴ何かを言っていた。そして、2人は市場の中の通りを取っ組み合いをしながらゴロゴロと回転していた。


           ※

一方、その近くで路地では劉備親子が編んだ草鞋を売っていたのだが、今日は売れ行きが悪く片付けをしていた。

「母さん、今日は余り売れませんでしたね」

「玄徳、今日もじゃないのかい?」

そう言って、少し笑った。

「母さん、でも昨日の方が草鞋が五足多く売れました」

「しかし、今日は筵が1枚しか売れなかったけど昨日は5枚売れました。単価が高いのは筵なので、それを考えると草鞋を売るより寧ろ筵を売る方が効率がいい」

「母さん、駄洒落ですか?」


「玄徳、聞きなさい。父が早くに死に、あなたは今でこそは筵や草鞋を編んで売っていますが、あなたの出自は中山靖王劉勝から途切れずに続く系図が読み上げられる漢王室の末裔なんですよ。大局に立って考えないということです」


「母さん、大変申し訳ありませんでした」

そう言って、劉備は頭を母に下げた。

すると、市場内に凄まじい声の衝撃が響き渡った。母親は腰を抜かさんばかりか驚いた。

「何があったんだい?まさか雷でも落ちたのだろうか?」

「どうやら、市場の肉屋の方角から聞こえて来ますね」

「肉屋なんて、この貧しい暮らしの送る日々の中では食べることは出来ないし、我々にとっては通る必要もない場所だと思っていました。あなたも肉を食べたかったのですね?」

「いえいえ、そうではなく市場で噂話を聞いたんです。『この石を退られる者、中の肉を持って帰って良し』と書いてある看板が肉屋の井戸の横に立て看板が出ているので、巨石をどかすことが出来れば、肉を手に入れられるのになあと思っていたのです」


「おや、おまえはそれを退けに行ったのかい?」

「いえ、どんな石なのか見てみたかっただけです。あの巨石を見たら、到底退ける事なんて出来ませんよ。何が起こっているのか見てきます」

「気をつけね」

そう言われて肉屋に向かうと大きな男が掴み合いの喧嘩をしていた。関羽は、張飛の口の中に丸太のように太い腕を噛ませ続けた。劉備は、余りの迫力に押されて言葉が出なかった。すると母親の声が聞こえて来た。

『何をやっているのです?大の大人が本気で喧嘩をすれば怪我をしてしまいます。あなたが止めないとどうするのです?』

思わず後ろを振り向いたが、母親はいなかった。






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