第36話 略奪

「おまえたちは、適当に位を与え地方に追いやり、霊帝の亡き後に己の私服を肥やし、民は飢饉で食えないのに重い税を課し、乱が起これば地方の兵士を送り抹殺して来た。今度は私が天に代わりおまえたちに罰を与える番だ」

「ち、違う。孟徳(曹操の字)よ。劉弁(少帝)が後継では、漢王朝は安泰になると思うか?混迷している世の中に、賢帝が政治を治めるべきなのだ。陳留王(劉協)は、霊帝が亡くなった時はまだ9歳だった。その身で泣き出したくらい聡明だ。劉弁(少帝)が、王位に就いては国がまとまるわけがない」


「な、も、孟徳(曹操の字)よ。昔からのよしみじゃないか?命だけは助けてくれ!私の息子はまだ幼い。父がいなくては不憫だと思わないないか?」


「かつての仲間じゃないか。頼む。命を助けてくれ!」

口々に曹操に訴えた。


「今のワシは、袁紹の元で着実に職務をこなすだけだ。たとえ、おまえに息子がいようがいまいがこのワシにとってそんな事は関係の無いことだ。また政治的対立の軋轢でこの国がまとまろうが、まとまらまいが知った事ではない。ましてや昔のよしみなんぞ、クソ食らえだ!」

そう言って、それには耳を貸さず処刑の準備にかかれと指示した。兵士に両脇を抱えられて、曹操の前から引きづり出された。かつての同僚の宦官を憐れみながら様々に泣き叫んだ。


「不忠臣の輩を討つ」という事で、袁紹軍に参加し今回やっとの思いで戻ってきたのだ。それが何とかつての同僚の宦官たちが、哀れにも曹操の顔を見て命乞いをして来た。 

数頭の馬のケツにそれぞれの宦官たちの体の上半身と下半身を紐で別々に括り付けた。


「やめてくれ、孟徳(曹操の字)!」

段珪、畢嵐、張譲のそれぞれが、悲鳴と叫びとも区別がつかない状態で口々に叫んだ。曹操は、何を言っているんだとばかりにニヤリと笑うと「やれ!」と顎をしゃくった。兵士たちがそれぞれの馬の尻を鞭でたたくと、馬は各方向に反対に走り出した。絶叫と共に3人の身体が上半身と下半身に別れた。そして裂けた胴体から血に塗れた内臓が地面に落ちた。 

「言い忘れていた。袁紹に対する職務命令以外に、以前私に対する仕打ちのお返しの意味もある」

曹操がそう呟いた。


「十常侍派を全員、処刑するわけにはいかないな」

曹操は、そう呟いた。

「元譲(夏侯惇)!」

「はっ!お呼びですか?」

拱手をして現れた。

「あとの宦官の関係者たちは、あの3人に巻き込まれただけだ。金品を巻き上げ勘弁してやれ」

そう指示を出した。夏侯惇は頷くと再び拱手をして離れた。




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