第49話 董卓、相国になる

「以上、余からの話は終わりである」

そう言った後、劉弁(少帝)は黄河に投げ込まれた猫が何とか岸にたどり着いたかのように、怯え震えていた。董卓はそれを見ながら、満足げに自分の髭を撫でていた。


「そして、献帝の護衛と洛陽の治安を守るため、この董卓は粉骨砕身で頑張ります。2度とこのような事が起きないようにな。皆の者、安心召されませ。ワハハ」と、笑い声が響き渡った。

そして董卓は、劉協(陳留王)を玉座に座らせると大声で言った。

「陳留王は、即位し献帝となった。しかし、漢帝は9歳とまだ幼い。そのためこれからはワシが相国となって、献帝を補佐していくこととなった。よいか、今後宮中に於いて勝手な諍いを起こすな。諍いや騒動を起こしたら、喧嘩両成敗として両者を処罰する事となる」

漢帝国を憂い過ぎて身を削ってきた王允たちは、愕然となった。相国という役職は、ある意味伝説のような賢人が就くようは職名で、権威が強く長らく空席になっていた。そんなある意味伝説的な職名に、よりによって董卓が就任するだと?

「そして、王允!王允は、何処だ?」


自分の名前が突然呼び出された、驚きながらみんなの前に出た。

「そうか。おまえが王允か。董皇后からもそなたの名前はよく聞く。おまえは、役職は変わらず再びワシの下の新たな司徒に任ずる。これからもよろしく補佐を頼む」

それを聞いて王允は、膝から崩れ落ちそうになった。

これからは董卓が、この漢帝に厄介な存在になると気付かされてしまった。一難去ってまた一難。いや昨今の出来事は二難三難だろう。激しいストレスで血圧が急激に上昇するのを感じた。献帝(劉協)は、寂しく遠くを見るような表情で何も言わなかった。またその事が不憫でならなかった。


「これで今日の閣議は終了だ」

献帝(劉協)は、何も言わずに閣議が終了した。これからは董卓の時代になったのだと、はっきり認識させられた。董卓は献帝(劉協)を身体の前で抱き抱えるように案内しながら、朝の閣議から去って行った。その姿は、『献帝(劉協)政権は、董卓の傀儡である』と、訴えているような物だった。


王允は、目眩を覚えた。董卓が相国だと?長らく前漢の頃からのその役職は空席で、半ばその役職は伝説めいていた。サッカーでいうなら背番号10番のようなものだ。おいそれとは就けられない役職だった。王允は、宮中を後にしながら暗澹たる気持ちになっていた。外の長い石段を降りていると、誰かが背後から話かけて来た。

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