第50話 王允
「大変な事になりましたなあ」
「お、おい!気をつけてくれ!」
王允は、新しい権利者董卓に聞かれては不味いと言った風に振り返ると、そっと小声を使った。友人でもある黄琬がこちらの表情を伺うように立っていた。それこそ他者に聞かれたら不味いと言った風に、黄琬が慌てて王允の横に並んだ。
「董卓の手の者に聞かれるとまずいからな」
そう王允が囁いた。
「献帝(劉協)の鬱屈したお顔を見たか?」
「ああっ。しかし、どうする事もできないだろう?」
王允は、そう答えるとまた歩き始めた。
「どうする事も出来ないからといって、これでいいのか?」
「案外、董卓が上手く治めてくれるかもしれん」
王允は、そう思いたかった。
「まだ相国になったばかりじゃないか。何も出来ないと決めつけるのはよくないのではないか。今回、前漢以来の役職に就くことを董卓が名乗ったというのなら、蕭何と曹参の2人を超えるほどの仕事をするという心算つもりではないのか?」
「本気で言っているのか?」
「まだ様子がわからんし、案外上手くやるかもしれないじゃいか?」
「おいおい、漢王朝の中で相国と言えば、蕭何と曹参の2人を指すんだぞ。相国として、この世に彼らほどの重大な仕事をこなせるほどの者がいるわけがない。だから、相国の役職の席は長らく空席となっていたんじゃないか。それは子師(王允)よ、知っているはずだろう?まさか董卓が、その2人を越えるとでも言うのか?」
黄琬が、そう驚きながら訊ねた。
「だが、どうすればいいんだ?今の董卓に、おまえでは蕭何と曹参を越える事は出来ない。さっさと引っ込んでろうとでも言えるのか?まだ、結果も出していない状態で」
王允が、声のトーンを落とすように目配せをした。
「そもそも漢王朝で、自らを相国と名乗る役職に就くという事で、あの男の馬鹿さ加減がわかるというものだ。引きずり下ろすには綿密な計画と準備がいる」
「わかった。董卓の専制政治が始まるだろう。これからはどんな事だって起こり得る。子師(王允)よ、連絡を密にしようじゃないか」
「ああっ、勿論」
石段の踊り場付近にある石塔近くに2人とも立ち止まると、後ろから何か言い合いをしながら石段を駆け足で降りて来る者たちに道を譲った。呂布と華雄が少し口論をしながら降りて来た。
追い抜きざまに聞こえた声は、近くで起こった農民の反乱にどちらが兵を出すかでもめているようだった。
「農民ごときの反乱ぐらいで、俺が兵を率いて行く必要ないだろう」
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