第4章 董卓暗殺計画

第48話 劉弁(少帝)の退位

宮中の騒動が収まり、董卓は何皇后、董皇后を呼び寄せた。宮中の焼け残った宮中に、十常侍の趙忠と郭勝ら全ての宦官を呼び寄せた。董卓の側には、呂布と華雄が、護衛するかのように立っていた。

董卓は、劉弁(少帝)を玉座に座らせると、その背もたれに腕を載せるようにして話しかけた。

「あなたがこれから何をしなければならないか、わかっていますよね?」

劉弁(少帝)は、身体をまるで冬山に裸でいるかのようにガタガタと振るせながら訊ねる。

「な、な、何をす、す、すればいい?」

そう言うと、劉弁(少帝)の両目には涙が溜まっていた。退位すれば、自分の価値が無価値になるというくらいはわかるのだろう。泣きすぎてひきつけを起こしそうになっていた。


「今回の騒動の起因となったのは、あなたの外戚、何進が権力の独占を図ったことだ。それを黙認したことによって、結果として、 何進暗殺という重大な事態を招き入れ、宮中を混乱状態にしてしまった。あなたは、全責任を取って直ちに退位し引農王となり、陳留王(劉協)に位を譲るのです。そして、あなたも、あなたの実母何皇后も蟄居してもらう。そうすれば、陳留王(劉協)を支持する宦官たちは納得し宮中は治るはずだ」


閣議での董卓からの突然の提案を聞いて、何皇后の付けている化粧が、瞬時に乾燥したかのように顔が引きつった。袁紹からの招きで洛陽に来た董卓が、劉弁(少帝)たちの庇護の立場ではなく、自分たちを失脚さをさせた事を知った。董卓は、陳留王(劉協)を支持する宦官たちから信頼を得るには、彼らの望むこともしてやらないとダメだろう。軍事力で恐怖を与えれば人々は従順な犬のように言う事を聞くようになるはずだ。


「さあ禅譲の辞を述べられよ」

董卓は、そう小声で劉弁(少帝)の耳元で言った後、手元に置かれた退位の詔が書かれた竹簡を指先で「ちょん、ちょん」と差し示した。劉弁(少帝)は、首を左右に振り自分が書きたくて書いたのではないと否定しようとしたが、今更自分に何の他に選択肢があるのかと思った。


竹簡を広げ、この度の騒動の後始末を取るため、退位することを泣きながら何とか読み上げた。陳留王(劉協)を支持する中にも、劉弁(少帝)の退位には同情する者がいたが、彼の資質の問題だったので今のような状況下では致し方ないという雰囲気が宮中を支配していた。

宦官の役職の中の1人、司徒の役職にいる王允もそう考えていた。劉弁(少帝)の無能さと不適格さがこのような事態を招き入れてしまったのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る