第43話 宮中騒乱

「ある程度、武力を用いるのは仕方ないのではないですか?」

「その力加減のほどはわからない。また今回のようや強引なやり方は将来に禍根を残す。勿論、我々から仕掛けたのではない。何進を殺害したためにこういう事態を招いたのだ。無頼な兵隊が、宮中に押し込んで火災になったというのは、漢帝の権威の失墜を招くだろう。いずれにしても良くないことが起こってしまったのだ」


劉備は何も応えず頷いた。宦官同士、生母と嫁の争い、跡目争いも加わり魑魅魍魎化して来たのだ。

「これからも洛陽では、こんな諍いが起こるだろう。またいずれ何処かで、玄徳(劉備の字)殿にも再び会うことがあるだろう。それまでは達者でな」

曹操は、そう言って頭を下げると兵を引き連れ去っていった。


三義兄弟は、後ろ姿に挨拶し見送った。兵が見えなくなってから関羽が呟いた。

「兄上、曹操軍はなかなか整然としていますなあ」

劉備がゆっくりと振り返った。

「曹操殿の性格に似ている兵だな」

「しかし、あれだけの軍勢が俺たちにあったらなあ。もっと活躍して、袁紹を逆に平伏してお願いされる立場になる事が出来るのに」

「翼徳(張飛の字)よ。それを言っても仕方がない事だ。今回は、三兄弟揃って都の洛陽に来れただけでも十分だ。ここからスタートにすればいい」

関羽と張飛は、お互いに顔を見合わせるとつい本音がポロリと出た。

「なんだか、思わず飲みたくなってきたなあ」

張飛がこぼした。

「何故、そうなるんだ?まだここの後始末が終わっていないぞ」

劉備がそう言うと、火事の瓦礫を再び片付け始めた。

「わかったよ」

張飛がバツが悪そうな顔をして言うと、片付けを始めると、関羽が何かを言いたげに長いストレートの髭を右手で撫でていた。


        ※

何皇后は、激怒していた。宮中に火を放つとは、袁紹に、何進を殺害した人物を捜せとは言ったが、まさか宮中に押し込み、火を放てとは言っていない。これではただの狼藉ではないか。

美しい顔を歪めた。歳月は経ったとはいえ、まだまだその魅力を保っていた。皇后は、鏡で自分の姿を眺めながら嘆いていた。こめかみに小さな米粒大のシミを見つけたりすると大騒ぎする。

彼女は、もともとは賤民の出で、貧しくとても本来なら到底宮中に入り今の地位に就けるはずもなかった。まして皇后になることなど土台不可能な事だった。


「皇后様、早く逃げませんと、身に危険が及びます」

女官が、悠然と構えている何皇后に避難を呼びかけた。

「何ですか!無礼な!この事態を引き起こしたのは袁紹を呼びなさい!」

   

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