第45話 曹操撤退
「待てー!待たんか!」
追っ手からの声が聞こえて来た。陳留王(劉協)の命が危ない。最悪追っ手に捕まったら、宮中に押し入って来たのは劉弁(少帝派)の軍なので、陳留王(劉協)を護るためには劉弁(少帝)を差し出してその間に逃げるしかない。趙忠は、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「ズブッ!」、「ズブって!」と弓矢が馬車の輿に突き刺さる。
「死にたくない。死にたくない」
またもや劉弁(少帝)が泣き出した。趙忠と郭勝は、イライラしてそれを見守っていた。こんな凡才な漢帝では安寧が保てまいと思った。
輿に次々と弓矢が突き刺さる。
「止まれ!」
馬車が走り抜けた後、追手の馬の足が止まって行くのがわかった。しばらくすると、今度は誰かが馬車に「停まれ!」と言った瞬間、馬車の近くで金属がぶつかる音が聞こえた。馬車が急停車した。趙忠らは、輿の中で思わずつんのめりそうになった。他の兵士を既に何処かに待ち伏せさせていて、馬車をその網に追い込むつもりで後を追って来たのだろうか。まさに袋のネズミだった。
「さあ、出て来い。無駄な抵抗はするな」
趙忠が、そっと板の戸を少し開け外を眺めると、白い髭を生やした男が馬車の戸を叩いているのが見えた。董卓だ!万事窮すとはこの事だろう。思わず天を仰いだ。
馬車の戸の鍵を開けるか、押し開けるのか、ほぼ同時だった。
「董卓だ!袁紹に呼ばれ応じたが、本当に漢帝国に取って、民とってどれが1番いいのか考え直したら劉弁(少帝)を支持する事ではない。大局に立って考えるべきだろう。安心しろ。ワシは何皇后派では無い。十常侍たちと相談しながら帝を支えようではないか」
董卓は、怯える2人の霊帝の遺児見つけ思わず喜んだ。
「よいか。怯えずとも良い。早く出て来なさい!」
趙忠、郭勝そして陳留王(劉協)が馬車から降りてきた。しかし、劉弁(少帝)は馬車の輿の隅っこでひきつけを起こすぐらい泣きじゃくている。2人は、その姿を見て、やはり彼が霊帝の後では世の中がまとまらないだろうと即座に考えた。
孫堅らが、後を追いかけ馬車が見えて来た。馬車の後方30メートルの所で、1人の男が馬に跨がり孫堅の兵を堰き止めていた。
「なんだ?」
追っていた孫堅が、手綱を引いてその男の前で馬を止めた。他の兵士たちもぶつかりそうになって立ち止まる。
「おまえは、丁原の所にいた呂布じゃないのか?」
孫堅が訊ねた。
「董卓が、(養)父の呂布だ。これ以上は一歩も進ませないぞ。さあ怪我や命を落としたくなければ、兵を引き返せ!」
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