第41話 三義兄弟

袁術が青琑門(嘉徳殿の門)に火をつけた後始末を、劉備、関羽、張飛がしていた。張飛が、焦げた門の柱を倒しながらこう言った。

「いいか、兄者!なんで俺たちがこんなことをしなけゃならないんだ?」

鼻の穴をおっ広げて更に張飛が言った。

「兄者は、漢王室の末裔じゃないか?こんな末端の一般兵と同じ扱いを受けるなんて、俺には納得出来ないね」


関羽は、それを聞いて手を止めて、ビロードのような長く伸ばした髭を右手で撫でていた。

「翼徳(張飛の字)そう言うな。1番悔しい思いをしてるのは兄上だ」

関羽は、チラッと横目で劉備を見た。

「だって兄者は、聖人君子のような佇まいで黙って言われたことをやっている。本当に悔しがっているのか?」

張飛が疑いながら言った。


「仕方があるまい。数百名の兵を用意して集まれと袁紹殿からの呼びかけだったが、我ら三兄弟しか集まらず、私たちを洛陽に派兵してくれただけでも多少とも漢王室と関わる事が出来た」

劉備はそう言うと、焼け焦げた死体の上にある瓦礫をどけながら手を合わせた。


その側で、両手を合わせ泣いている白い髭を蓄えた老人がいた。その側で小さな体で支えようと女の子がしていた。孫だろうか。劉備は、近づき声をかけた。

「どうかされましたか?」

そう聞かれ、老人はか細い体をよろよろと背を伸ばした。

「漢王室の王宮に火を放たれるとは。霊帝様が生きていたら大いに悲しんでいたでしょう。元々は、自分が蒔いた種だ。また皇后と、生母との争いで板挟みになっていたはずだ。その跡目争いの出来事でこんなことになってしまったことを、きっと嘆き悲しんでいたに違いない」


「跡継ぎを決められなかったのでしょう」

劉備がそう言うと、老人が疑いの目を向けた。

「あなたは、一般の兵士じゃないでしょう?」

張飛が、煤で汚れた顔を、笑顔にして老人に話しかけた。

「さすがは目の肥えた爺さんだ!兄者は、漢王室の末裔なんだ。それがなんの因果か知らないが、ここで末端の兵士と同じ事をしてるんだ」

「よさないか、翼徳(張飛)」

「しかし、兄者。この爺さんは、兄貴が只者では無いと気づいたんだ。しっかり紹介してやった方がいいだろう?」

「そんな事を言っても、今は何の役にもならない」


劉備は自分の境遇を妬んでもいた。漢王室の末裔なのに、王宮の外で火事の片づけをしているとは。霊帝亡き後の混乱の中で、自分が何の役に立っていると言うのだろうか。

老人は、劉備が漢王室の末裔と聞いて頭を何度も下げると立ち去った。


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