第40話 孫堅

           ※

「いいか。逆らう者は切れ!」

孫堅が、部下に命令を出した。このまま何も恩賞を受けずに故郷の呉には帰れまい。また地上戦で活躍出来なければ、呉の人間は水軍は上手いが陸地では役にたたないと言われるだろう。丘に上がった河童だと呼ばれると思った。宮中の向かって来る近衛兵を蹴散らしながら奥に進む。今後の足掛かりとなる活躍しなければならないと焦っていた。


「うわあー!」

突然、柱の影に隠れていた近衛兵が、叫び声を上げながらかかってきた。それを孫堅は、刀を一振りし右腕を切り落とした。

「ぎゃあー!」

近衛兵は、自分の右腕が一瞬にして無くなった事に驚いたのか、痛みで声を上げたのかはわからない。そして返す刀でもう一方の腕を切り落とした。

「うわああ」


近衛兵は数秒で、両腕が無くなり絶句し地面にもんどり打った。近衛兵たちが、力では負けるのか数をかけて襲って来た。

「どけー!邪魔をするな!」

その時、奥に子供を連れた人影が見えた。

「何だ?追うぞ!」

近衛兵が、邪魔をしようと身を投げ出しながら制止する。

「おまえたちの行為は立派だが、ただの犬死にだ。邪魔だてするな!」

近衛兵が、10人ほど並び行手を阻もうとした。たちまち孫堅の槍を持った部下が、両端を防御した。

「ダァー!」と声を上げて槍を近衛兵に突き刺した。串刺しにされた近衛兵が、もがきながら床に倒れた。

「先をお急いでください」

部下たちが、近衛兵の防御の壁をこじ開けるとそう言った。


「追え!」

そう言って孫堅は、近衛兵たちと戦闘をしている中程を割って入っていった。人影を追いながら先を進むと、またもや近衛兵が襲って来た。切り付けながら身をかわすと先を急ぐ。人影が北宮を抜けて行くのが見えたからだ。『宮中を脱出されてしまう!』孫堅は焦りながら、近衛兵と対峙していた。


           ※

趙忠と郭勝は、2人の霊帝の遺児を逃そうと必死になっていた。趙忠の背中で劉弁(少帝)はシクシクと泣いていた。その一方で、陳留王(劉協)は何も言わず、郭勝の手をしっかり握りしめていた。

「泣いている場合ではありません!あなたは、先帝亡き後の漢王朝を継いでいるのですよ。政変に巻き込まれることもあるでしょう。覚悟なさい!」

郭勝がそう怒鳴りつけた。背後から孫堅の兵の声が聞こえて来た。

「死にたくなければ、いい加減自分の足で歩きなさい!」

郭勝が、劉弁(少帝)を趙忠の背中から引きずり下ろすように言った。劉弁(少帝)は仕方なく床に足を下ろした。

「よし、このまま走るぞ」

郭勝は、陳留王(劉協)を脇に抱えて走り出した。


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