第33話 混乱
「何処までお人好しなんだ」
その時部下の田豊が、「閣下、大変です!」と血相を変えて飛び込んで来た。
「何進様が宮中に参内したところを、宦官の段珪、畢嵐が率いた兵によって取り囲まれ、張譲に罵倒されながら嘉徳殿の前で殺されてしまったのです」
田豊は、そう一気に言うと腰が抜けてその場に喘ぎながら座り込んだ。
「何進が殺されただと?」
袁紹は、呆然となった。一瞬意味がわからなかった。突然、最大の後ろ盾を失う事となったのだ。側にいた袁術が思わず呟いた。
「だが待てよ。これは宮中に兵を入れられる最大のチャンスではないか?」
袁紹は、少し頭を傾げた。このタイミングを逃してどうするつもりなのかという様子で袁術が更に言った。
「ただちに何皇后に申し出て、段珪、畢嵐たちを捕まえ処刑し、陳留王(劉協)一派を抹殺する事が出来るではないか?」
袁紹が、「沮授を呼べ!」と近くにいた従者に声を上げた。沮授が何事かと慌てて呼び出された。
「何進が殺された」
袁紹の端正な横顔が、深刻な表情に変わった。袁紹は、顔は男前で凛々しかったが、短躯でスタイルが良くないところがマイナスだった。沮授は、袁紹に訊ねる。
「どうされるつもりですか?」と訊ねた。
「それがわからないから、おまえに訊いているのではないか!」
イラつきながら言った。それを聞いて沮授が慌てて答える。
「何進が殺されたというなら、宮中に押し入る口実も出来ました。その反面、何進という重しがなくなり十常侍らが勢いづくでしょう。もともと陳留王(劉協)支持者は多い。劉弁(少帝)は年長者ではありますが、漢帝の能力として疑義を持たれているのは事実です」
「今は混乱しています。一時撤退も視野に入れて今後は考えるべきかと」
田豊がそう言うと、「撤退」という言葉に反応し、袁紹の右の眉が吊り上がった。
「民の声を無視しては治世が出来なくなります。まして都の洛陽に住む民たちは特に気位が高い。また董卓軍の動きも気になります」
「あんな裏切り者を気にしてどうする?」
「董卓は、丁原の養子だった呂布を抱き込んだという噂を聞きました。我々、董卓、十常侍と3つどもえの戦いになるかもしれません。都を火の海にすれば民から恨みを買うでしょう。それは決して賢明な事とは思いません」
「元皓(田豊の字)!このチャンスを逃してどうする?」
袁術が、そう怒鳴ると田豊は必死になって話を続けた。
「しかし、宮中に入る大義名分は、何進殺害の犯人を捕まえるでいいでしょう。犯人を捕まえた後は、速やかに軍を退いて洛陽を離れないといけません」
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