第26話 不死身

近習が差し出した水を飲み、呂布は両目を強くつぶると喉の奥に流し込んだ。そしてゆっくり目を開け数分後には意識が朦朧となって来た。しばらくすると白目を向いて左側頭部をまるで向日葵の花の茎が折れるようにガックリと首を倒した。そして目蓋をゆっくりと閉じ眠りに入った。


董卓は兵を呼び、担架に呂布を乗せて董卓の家まで運ばせた。翌朝、準備が整うと程義宗と陸豪と共に呪術師斎勲健のいる洞窟に向かう出発した。

悪路の中、数回の休憩を挟み移動をしたが、その間も呂布は一度も目を開ける事はなかった。山道を呂布を担架に乗せて通り洞窟の入り口までやって来た。金貨を投げ呪術師を呼び寄せる。


ボロ雑巾を纏っ鷹のような姿をした呪術師が、瘤だらけの杖を突きながら出て来た。呂布を洞窟の奥に呂布を運ばせ、車輪がついたベッドの上に載せさせると言った。

「残りの金貨を持って来たか?」

董卓は、異国の金貨50000枚も何に使うのだろうかと思いながらも差し出した。

それを受け取ると、斎勲健が言った。

「呪術が終わるまで、ここの洞窟の入口付近で待っておれ」

「どれくらい時間がかかる?」

「さあな、この男の体力次第だ」

そう言うと、ガラガラと車輪の付いたベッドを押して洞窟の奥へ消えて行った。


しばらくして洞窟の奥から何やら祈りの声や、何かを叩く音や、または奇声が聞こえてきた。董卓たちは、中に入る訳にはいかずジリジリしながら待っていた。待っている途中、腹が減ったので入り口付近で火を起こし食事を食べていた。

洞窟に入ってから8時間が経過する頃、突然「ギャー!」という呂布の断末魔の叫び声が聞こえてきた。驚いて洞窟の奥を見ていると、しばらくして、漆黒の暗闇から斎勲健が1人奥から出てきた。ふらふらとした足取りと顔には疲労の色が濃く出ていた。


董卓たちが駆け寄った。

「終わった」

そう呟いた。吐く息がこの世の物とは思えないほど臭かった。

「呂布は、どうなったのだ?」

董卓が、訊ねたその時、上半身裸の呂布が狂ったように洞窟から出て来た。


「董卓!不死身になった男を捉えてみろ!」

董卓の方を見ると、試してみろと言わんばかりに呪術師が呂布に向かって顎をしゃくった。

「呂布を捕らえろ!」

そう周りにいた兵士に向かって言った。何人かの兵士が飛びかかったが、まるでまとわりつく紙屑を払うかのように最も簡単に兵士をはたいて蹴散らした。呂布の上半身の筋肉が怒りで盛り上がり、兵士にぶち当たると鈍い音が聞こえ、骨が折れるのか、手足が逆向きになって地面に倒れたまま呻いていた。





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