第20話 蠱毒(こどく)

「ただし、その蠱毒(こどく)という術を使うには、莽山洛鉄頭(マンシャンピットバイパー中国の毒蛇)が千匹必要となってくる」

やはり我が国で一番大きな毒蛇が千匹も必要な呪術なのだ。


「その千匹を1つの場所で飼い、水以外の餌を一切与えず共食いをさせるのじゃ。その中でたった1匹生き残った物こそが神霊となる。神霊を崇め、その人間の体内に住まわせる事で不死身の体となるのじゃ。そのため、この世の毒を吐かせるために数日間はその千匹に絶食させないといけない」

「千匹を揃えるのにどのくらい時間がかかる?」

董卓が焦りながら訊ねた。

「1年か2年」

その答えに董卓は落胆した。今から莽山洛鉄頭(マンシャンピットバイパー中国の毒蛇)を千匹用意するなんて、土台無理な話だ。そこから更に呂布を調略し、そして丁原暗殺を実行させるまで時間がかかりすぎる。せっかく辺境の地まで馬を走らせやって来たのに、妙案を生かせずこんな結末を迎えるとは。疲労感がどっと身体にのしかかった。


「つまり新たなる神霊を迎え入れようとすると、一定の期間がいるという事だ」

「新たなる?」

董卓は、その言葉に思わず反応した。

「ワシの手元に神霊となった莽山洛鉄頭(マンシャンピットバイパー中国の毒蛇)が、1対おられ卵を産んだ。その子供を更に千匹の中で飼った囲いの中で飼ってみた。神霊になった物が2匹いる」

「おおぅ」

思わず董卓は、唸り声を上げた。

「お願いがあるのですが、その蠱毒の術で不死身の体にして欲しい男がいる。洛陽の都まで来てくださらぬか?」


斎勲健は、頭を左右に振った。

「それは出来ない」

董卓が驚いて訊ねる。

「ど、どうしてだ?」

「まずワシの身体が、洛陽の都に行くにはもたないのだ。先程も言ったろう?日に当たると体の皮膚が赤くなって腫れ上がる」

董卓は、その言葉に思わず言った。

「で、では、よ、夜に行けば良いではないか?」

その言葉にまたもや斎勲健は首を左右に振った。


「ワシはここを離れられない。ワシが離れたら誰が神霊のお世話をするのだ?」

董卓は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「では、呂布に呪術を掛けることは出来ないじゃないか!」

斎勲健は、それを聞いて唇の端に笑みを浮かべた後、こう言った。

「1つだけ方法がある」

「どんな方法だ?」

董卓は思わず身を乗り出しながら訊ねた。

「呪術をかけたいという男に鹿子玉を飲ませ、ここまで運んで来るのじゃ。ここに来れば問題はない。後はワシの仕事だ」

「鹿子玉とは何だ?」

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