第19話 呪術

董卓は思わず「あっ!」と声を上げた。その声を掻き消すように金貨がチャリンとやまびこのように洞窟内に響いた。四、五分経っても何の変化も起こらなかった。董卓は先程の程義宗が勝手に巾着を丸ごと洞窟に投げた事が気に入らず、何か文句を言おうとして口を開いた瞬間、程義宗から「シッ」と唇の前に指を立てに置きそう言った。


一向に斎勲健が現れないので、董卓はイライラして来た。

「何にも疑う事もなく洞窟の前で待っていてください」

程義宗がそう囁いた。斎勲健が現れない限りどうしようもないのだ。暫くすると、洞窟の奥からバサバサと音が聞こえて来た。羽音のような物が聞こえて来た。すると、コツコツと何か岩肌を突く音が聞こえて来た。洞窟の奥から人が現れて来た。両方にひさしの付いた大きな帽子を被り、木の根っこのようなぐにゃぐにゃと曲った杖を持ったボロボロの黒いマントを着ていた。


そして洞窟の入り口の手前で立ち止った。まるで日の光を避けるかのようだった。その男の頭上を数羽のコウモリが飛び回っている。

「斎勲健だな?」

程義宗がそう訊ねた。

「ああ」

そう言って体を少し揺さぶった。


「どうしてこんな時間に来たのだ?ワシは、日の光に当たると体が赤く腫れ上がるのだ」

そう言うと、巾着袋を取り出し怒鳴った。

「何だ?これは?」

「依頼料なのだが」

程義宗は、拱手をして頭を下げた。


「金か。こんな洞窟に住んでいてこんな物が役に立つと思うのか?」

程義宗は、その言葉の意味を知っていた。

『こんな役に立たない物で、自分の能力が買えるとは思うなよ』と言いたかった訳だ。

「お納めする事は叶いませんか?」

程義宗の言葉に、ニヤリと笑ってから斎が答えた。

「役には立たんが、邪魔もならない物だろう。仕方がない。受け取ってやろう」

そう言って、巾着を懐の中にしまった。笑った歯が、トウモロコシくらいに黄色い歯をしていた。程義宗が挨拶もほどほどに言った。


「あなたの呪術にかかれば、不死身の男が作る事が出来るとお聞きしたことがある。それは本当でしょうか?」

「そんな人間ができる訳がない」

斎勲健がそう答えた。予想外の返事に董卓が驚いた。

「正し、蠱毒(こどく)という術を使えれば不可能ではない。身体が莽山洛鉄頭(マンシャンピットバイパー中国の毒蛇)と同体になれればな」

「ほ、本当ですか?」


「しかし、いくら不死身とはいえ、首をはねられたら終わりぞ」

「首をはねられたら、高等な生き物ならみな死ぬだろう?」

董卓がそう言った。そんな事をされたら当然誰でも死ぬに決まっていると思った。

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