第15話 策を弄する

董卓は若い頃、異民族間を交流しており、その時に辺境の地に住む遊牧民たちは馬の扱いには非常に秀でていたが、赤兎馬だけは乗りこなす事が出来ずにいた。戦場に於いて馬ほど重要で心強い相棒はいない。今まで何とか赤兎馬を乗りこなしたいと願って来たが叶わなかった。


秦を建国した始皇帝の秦氏一族も、元々は馬を育てるのが上手くて、その当時の王から認められてばってきされて来たのだ。そしてやがては秦という統一国家を建国することに繋がった。だから、董卓も馬を育てるノウハウや、異民族が持つ風習やカルチャーに非常に興味があった。


元々呂布には、方天画戟(ほうてんがげき)という武器を持っていた。そこに更に赤兎馬という名馬をあてがえば鬼に金棒になるだろう。いや、待てよ。それだけでよいのか?さて呂布自身の肉体を超越する更なる能力を与えるべきではないのか。正に無敵と呼ばれる状態になる事。それは呂布が渇望し、丁原の元から離れる大きな事由が必要だ。それは何か。董卓は陸豪が目の前にいる事も忘れ考えを巡らせていた。


「そうだ!」

董卓は、思わず自分のこと右の太ももを叩いた。呂布に蠱毒(こどく)により無敵にする呪術をかけるというのはどうだろう。

蠱毒とは、異民族の中でも辺境の地にいるイ族(彝族)の呪術師が使う物で、莽山洛鉄頭(マンシャンピットバイパー中国の毒蛇)を2匹づつ同じ容器の中で飼い、数匹を飢えさせ共食いを促せる。そして千匹の中から生き残ったたった一匹こそが、神霊となり蛇神として崇め祀られる。呪術師にその蛇神の力で呂布と一体化させるのだ。そうすれば、呂布の体の中に莽山洛鉄頭が住み、身体が変化し無敵になるだろう。赤兎馬、方天画戟、そして莽山洛鉄頭で3身一体となれば、護衛には呂布一人で十分だという事になるだろう。


さてあとは何処で丁原側にいる呂布を呼び出し、このオファーを申し出るかだ。呂布は何といっても、まだ丁原側の部下なのだ。その段取りは陸豪に頼むしか無いだろう。

「そなたに頼みたい事があるんじゃが、どうかな?」

董卓は、最高に嫌らしい顔をして笑った。権力の座が近づき欲に塗れた顔だった。

「なんでございましょうか?」

「呂布を金剛石寺に呼び出してくれないか?」

董卓は、長い自分の顎髭を撫でながら訊ねた。

「いつ頃ですか?」

何だ、そんな事だったのかと陸豪はホッとした。

「まだわからない。その前に事前の調節がいるからな」 

「かしこまりました。またその時が来れば教えてください」

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