第14話 幼なじみ

「正に毒婦だな。その母親のせいで体を鍛えたというのか」

そう訊ねながら、玉座とも言える椅子に座り董卓は、白髪混じりの癖のある顎髭を右手で撫でていた。

「今では武将として逞しく、力強くエネルギーがみなぎっていますが、その反面知能というのか発想力というか、まだ何処か母親の姿を求める少年のような気持ちが呂布にはあるのです。また武将として最高のレベルに達したのも少年が抱く強い男性、ヒーローに憧れを抱くような発想から来ているんですよ。強く逞しい筋肉質の男性になりたいと強く願い精進して来たのも、実際には彼の純粋というのか無垢と言ってもいいのかわかりませんが、それよりもただ単に世間知らずなところがあるのかもしれない。またそんな素朴さが奉先(呂布の字)の魅力なんでしょうな」


「それただ単に筋肉馬鹿という事では無いのか?」

董卓が訊ねた。

「そこまで呂布は、おバカではないですよ。丁原に見言って出してもらった事を感謝していますが、丁原が何処かで奉先の事を馬鹿にしているということに気付いています。武将としての力量には疑いはない。それが自分自身が由来だとは気付いていない。奉先は、戦略や人としての深みの部分で少し欠けているところがあります。実際二人は信頼し合っているようだが、その関係は本当は弱いでしょうな」


「なるほど。なかなか陸豪殿は、的確な分析をされる方ですな」

「奉先みたいに脳味噌が筋肉出来ていませんので」

董卓は、それを聞いてニヤリと笑った。

「陸豪殿、褒美は何がいいだろう?」

「少府、私は褒美などという物が欲しくてここに来たのではありません」

陸豪は、そう言って両手の平を見せながら左右に振った。呂布とは、幼なじみといっても何処か小馬鹿にして付き合いをしているように思える。それは呂布という男の扱いやすさを表しているのだろうか。董卓は、ふと満面の笑みを浮かべた。呂布を手中に納めるのは案外簡単だった。丁原以上の条件を出せばなんとかなるのではないか。それは逆に魅力的なオファーがなければこちらにはなびかないということがわかった。


しかし、金や品物だけではありきたり過ぎる。それ以上の物でなければならないだろう。それさえそろえば、呂布が手に入るかもしれない。それは一体なんだろう。


はたとひらめいた。

『そうだ。ワシが持っている1日千里を駆けるという赤兎馬をくれてやろう!』

それならば不足はないだろう。馬中に赤兎ありと歌われた名馬だが、気性が荒く誰にも乗りこなせずにいた。しかし、呂布ならば乗りこなせるだろう。


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