第16話 絹一反を渋る

「陸豪殿、褒美は何がいい?」

董卓は、後ろの引き出しから何かをゴソゴソと探し出した。

「少府、私は褒美などという物が欲しくてここに来たのではありません」

そう言って陸豪は両手の平を見せながら左右に振った。しかし、これは自分はいかに慎み深い人物であるというあくまでも演技のためだ。心の中では、褒美に期待していた。董卓は最初、絹を三反手に取ったが、首を左右に振り一反戻してしまった。


一瞬、陸豪は我が目を疑った。何というケチな男なのだろうか。洛陽の自宅では、街中の女を掻っ攫い酒池肉林の宴を連日開いていると聞いていた。そんな豪勢な事をしているのに、陸豪が幼なじみを売った罪悪感さえ消し飛ぶような軽い恩賞で済ますつもりなのだ。


一方、董卓にとって既に次の事を考えていた。目の前にいる陸豪の存在は消え去り、呂布調略に知恵を巡らせていた。董卓が差し出す絹二反をいつまでも受け取らないので、「どうしたのだ?」と訝しがった。このまま受け取らないで、董卓を激怒させることは避けたいと思い、笑顔を作り渋々受け取り引き下がった。


呂布を凋落し、丁原を殺させるのだ。そして丁原の兵士を総取りする。大胆な考えだった。それを実行するにはどうすればいいか。董卓は、急いで出かける支度をした。そして、近くに控えていた従者に向かって「馬を用意しろ!すぐに呼び出せ!」と大声を張り上げた。従者は、腰を抜かさんばかりに驚きながら駆けつけた。董卓の声は、建物の中にまるで雷鳴のように響いた。

「直ぐに出かける。5日ほどは帰らない。その間は、自宅の警備を固めよ。行け!」従者は、腰を抜かしかけながらも、下手なブレイダンスを踊るかのように部屋を転がるようにして飛び出して行った。


蠱毒(こどく)を行う呪術師は、辺境の地にいる少数民族だ。霊能を持った限られた人間しか出来ないので、伝承出来ずに途絶える事もあった。だが、幸いにも呪術をかけることの出来る者が存在していた。その男の名前は斎勲健といった。


しかし、まず最初に呪術師を繋いでくれる程義宗とコンタクトを取らならければならなかった。もう少し日数を見た方がいいだろう。董卓は胸が震える思いだった。あの呂布が、我が物に出来ると思うと興奮していた。董卓は、数名の部下を連れ南西に向かった。10時頃に出発したのが何十里を走らせた後、すっかり夜になってしまった。野営をした。テントを貼り、狼の襲撃な度に備えて火を焚いた。



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