第10話 不確かな時代

しかし、もしかすると関羽にも張飛にも何故劉備に惹かれるのかなんてわからないかもしれない。最早、理由なんてないのかもしれない。ただ劉備玄徳という人間と共に生き、笑い、泣き、喚きしているうちに「なんだ、兄上、兄者。こうなるしかなかったのか」と言ってそうだった。


「この先にある公園のデコポンの園で、誓いを立てようじゃないか!」

張飛が大声で言った。鼓膜が破れる手前のボリュームに抑えていた。

「そうだな。ワシら三兄弟(三義兄弟)で誓いを立てようじゃないか。いや、そしてその前に義兄弟の盃を交わそうや」


「そうだ。近くの屋台で酒を飲んでいると、アテがなくなったというのでどうすればいいのかと訊ねたところ、ここ来ればいい肉がタダで手に入るというのでやって来たんだが、そういえばまだ飲んでいる途中だった。一緒に屋台でやらないか?」

関羽が盃を飲む手振りを見せると、張飛は「いいねえ」と唸った。


「人生とは愉快なものだな。まさか昨日まで義兄弟が、出来るなんて考えても見なかった」

張飛が、そう言ってニヤリと笑った。劉備がまるで悟りを話すように張飛に答えた。

「こんな不確かな時代に、我ら三兄弟(三義兄弟)が巡り逢い永遠の契りを結び得たのははたまた偶然か?はたまた必然だろうか?」

「兄上の話はどうも頭の裏側が痒くなってくる話だな」

「翼徳(張飛)よ。どうしてそんな事しか言えないのだ?」

関羽が少し呆れるように言った。

「では兄者は、長兄の言われる所がわかるのか?」

「兄上が言われておられることは、これは道理であると共に真実でもあるし信念でもあるんだ」

関羽が、そう張飛を諭すように語りかけた。劉備がまたもやテレパシーでそれぞれに語りかけた。


『これは必然だと思う。不確か時代にこそ、人が拠り所とするところは仁と義ではないか?こんな時こそ、我ら三兄弟(義兄弟)が互いに支え合い、信じ合っていかねばならないのではないか』

関羽が、その内なる声に震えて涙を流し出した。劉備のテレパシーは心に語りかけるようで、特にこの義兄弟の2人には大きく響くようである。関羽と張飛は、感情を激しく揺さぶられたらしい。互いに肩を組み合い円になり号泣してた。

「兄上の言われる通り、むしろこういう時代だからこそ、はっきり見えてくる物があるのだと思う。見えてくる物というより、拠り所とすべき物だろうなあ」

関羽がそう言った。


そしてデコポン園の花の下、3人は兄弟(義兄弟)になった。ただ劉備には気がかりなことがあった。それは母の事だった。

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