第9話 仁と義
関羽は、少し苦笑いを浮かべた。
「劉備殿、では、私たちをあなた様の義弟にしてください」
関羽がそう言って、劉備に頭を下げて願うと張飛も慌てて同じように頭を下げた。そして言った。
「我らの義長兄になってください」
劉備も両者の拱手をしている腕を持ち上げ立つように促すと拱手をして言った。
「では雲長殿、翼徳殿、私は今はただの筵売り。主君も家来もあったものじゃない。我ら三兄弟、死ぬ時を共にするというのなら永遠の契りを結びましょうぞ」
張飛が、満面の笑みで関羽に言った。
「兄者、良かったなあ」
「翼徳!」
「兄上!」
そう言って、お互いがお互いの肩を抱き合い3人は輪になった。
「我ら義兄弟の契りを結び、天の代わりとなり今漢王室を食い荒らす不忠臣者董卓を討たねばならない」
劉備が激しい口調でそう言った。関羽は、劉備の気位の高さに感心した。日頃は筵を編み、草履を編んでいたとしても皇叔としての気位を決して忘れてはいない。その事が今の彼の状態を苦しめているのだろう。現実とのギャップとでも言うのだろうか。
劉備にとって、遥か彼方にある漢王室を支えるという事は希望というよりもほぼ野望に近かった。現実的には99.99%無理な話であっても、そこにある可能性である0.01%を「無い」と捉えるか、0.01%でも可能性が「ある」と捉えるかでは考え方が全く違って来る。
関羽は思った。他の人間が聞けば、土地も無い、民もいないそんな筵を売っているような人間が、幾ら漢王室の末裔だからといって何が出来るのだろう?
思っている以上に何も出来ないかもしれない。いや、出来ないだろう。今の劉備は完全に没落していた。
今のこの状態で言える事は、妄想以外何ものでもないのだ。しかし、それは自然な事といってもいいだろう。現状では何も無いからだ。しかしその妄想も、劉備という人間と一緒にいたらいつの日か「やっぱりそうだったか」と実現していそうな気がする。いやそう思わせるだけ劉備という人物には人間的な魅力があった。側にいるだけでワクワクさせてくれる。ハッピーにさせてくれる存在なのだ。
0.01%に可能性を見出せる男であり、そんな男と夢を賭けてみたくさせる。そんなペテン師的要素もある人間力に溢れた人物だった。0.01%に人生を賭けてみるなんて大博打過ぎないか?そんな大博打だからこそ、そこに楽しみや喜びの方が大きく溢れてくるのではないか。張飛も素直に感動していた。
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