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もちろん、この老人も多くの誘いを受けていた。が、人同士の付き合いがそれほど得意でない老人は誘われても断ることが常だった。
老人は昔から、他の者よりも肉付きが悪く、筋肉もそこに存在しているのかわからないほどで、肉体美という言葉に当てはまったためしがない。体も病弱。日の光を嫌う体を持ったことも相まって他の同い年の少年が外で元気に跳ねようとも窓からそれを眺めるだけで、自らは外に出る事を極力避けるようになる。青年になり戦に借り出された時も足手まといになった上に足を負傷。引きずって歩くようになってからは戦に呼ばれることも無くなり、他の者達が嫌がる平民の職に自ら望んで手を上げた。それ以来、その職場から出てくることはまれとなって今に至っている。
では何故、そんな老人が多くの酒宴に呼ばれるのか。
様々な知識が記された巻子と呼ばれる巻物を管理するそれが老人の職であり、そして老人が住まっているのはまさに巻子本が保管されている場所。様々な場所から其の一か所に集められた巻子を管理し、見たいという者が現れれば即座に其れを探し出し手渡す。また、文字を書けぬが巻子として残したい、文字は書けるが書くのが面倒であるという者が現れれば老人自らが代筆する作業もしていた。
管理しているのであるから、当然のことながら巻子の中身は読み、熟知している。その毎日が老人の知識を膨大にしていった。特別な教育を受けずとも老人の知識はそこいらの学者よりも深かく、多種多様な知識を持っている老人は、幾多の学を修める者として様々な場所から誘いを受けることになる。老人の、老人の中にしかない知識を学びたいと思う者も増え「師」と呼ばれる存在で無いにも関わらず、酒宴の招待はやまなかった。
しかし、そのようになった原因は人に会いたくないという老人の籠る性格があったゆえ。
酒宴に誘われるという事は出かけ、人に会わねばならない、老人はそれを嫌い招待に応えたことは無かった。しかし、誘おうとも出てこない老人の態度に「何かあるのではないか」と、知りたがりの人々が招待を止めることは無かった。
外に出向く、其れはこの時代恥ずかしいとされた筋肉もないか細い身体、そして足を引きずって歩く姿を好奇の目に晒さねばならない。そういう状況を好ましく思わず、酒宴の招待を断り続けていた老人だったが、今回の酒宴の招待には二つ返事でわかったと答える。
理由は一つ。酒宴を催す主人が知る人だけでなく、学に関係のないものまでその名を知っていると言う有名な「師」であったからだ。
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