相対する表裏。

 母は、品行方正という言葉がそのまま当てはまる人だった。

 父は、謹厳実直という言葉がそのまま当てはまる人だった。

 そんな二人の間に「私」は生まれた。


 父は婿養子。

 大企業というわけではないが、それなりの年商をたたき出す会社を経営していて、厳しさの中にも優しさが垣間見える大きく温かい人。


 母はお嬢様。

 世間知らずで純粋な経営のけの字もわからない人だったが、天使のようなほほえみを浮かべ、存在するだけで周りを明るく照らしていた。


 清く、優しくありなさい。強く、正しくありなさい。当然の教えは必然と私の体の中に染み入り、私を形成していた。

 酷く平和で、争いの無い自らの世界はとても心地がいい物だと、馬鹿みたいに信じている「私」に今の「僕」が出会えたらなんというだろう。

 世界は清らかであればあるほどに汚れているのだと、綺麗に見える上澄みのその下には酷くどす黒いヘドロがたまっているのだと、そう忠告するかもしれない。

 いや、もしくは、じっと何も言わずに陰に潜んで事の成り行きを、「僕」を作り出すその時を待つかもしれない。

 そう、この時点で「私」と呼称する彼女の中には「僕」という存在は無かった。


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