12
「なんだ、この話題は僕ちゃんにとっては地雷のようなものか?」
「話題もだけど、僕ちゃん、僕ちゃんって子ども扱いするなよ」
不機嫌を絵に描いたように、隠すことなく体全体で表現する姿で「子ども扱いするな」といわれ、思わず源蔵は噴出しそうになったが何とか堪える
「あぁ、そこも気に食わなんだか」
「これでももう、16になっているんだからな。それに僕にはちゃんと
「蓮戸ちゃんか」
「だから、ちゃんとかつけるなよ。幼稚臭くなるだろ。お前さんってさっきまで言っていたんだからそれでいいよ」
「折角親しみを込めてやろうと思ったのになぁ」
「嘘つけ、嫌味だろ」
源蔵のにやつきを嫌味ととらえた少女、響は相手をするのも面倒だと言わんばかりの態度で視線を戻す。
響にしてみればこれで会話は終わったと言ったところであったが、源蔵はそんな響の心情を分かっていながら口を開いた。
「で、お前さんはどうして男ぶっているんだ?」
「嫌に食いついてくるな、爺さん」
話を蒸し返して聞いてくる源蔵にいい加減嫌気が差したと響は睨みつけて言う。
そんな響の様子に、源蔵はにやついていた口元をしっかり結んで一呼吸置き、次の瞬間には真剣な表情をした。
「女であるのが嫌か?」
静かで酷く落ち着いた口調の源蔵の言葉は、響の心臓に剣を突き立てられている様にぐさりと来る一言で、源蔵に背を向けたまま足元に積み上げられている本達を眺める。
「……あぁ、嫌だね。虫唾が走る」
視線は足元の本を通り越し、どこか遠くを崇めているような、何を見ているというわけではないような雰囲気で、本を持つ手に力を込め絞り出すように小さくつぶやいた。
源蔵は基本的に他人のその人生観や考え方に自ら好んで深入りしようとはしない。
客と店主、それをわきまえきっちりと区切りをつけている。その境目がぼやけることは無い。
しかし、何故だか響の背中から頭、体全体から漂う妙な気配の影が見えた気がして、放っておけなくなってしまった。
珍しく源蔵は己で決めた境目を壊して客の領域に入っていく。
自らの視線の先に響を捕らえたまま言葉を吐き出した。
「異性ではなく同性に恋心を抱いているという訳では無かろう。己を男だと思い心と体が不相応であるから女を嫌がっているようにも見えん。何故に女という性が嫌いなんだ?」
しつこいほどに自分に「己自身の事」について語らせようとする源蔵の態度が鬱陶しく、煙がたちこめる様に嫌な気分が胸の辺りに広がり始める。
だがなぜか、響は源蔵など無視してさっさとその場を離れてしまうという行動を取ろうとはしない。
響にはこの場を去るという選択肢が思い浮かんでいなかった。
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