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「そうか、帰るか……。まぁ、本人がそう言うなら仕方ないな。時に、どうして僕ちゃんは男の子というわけでもないのに、男子のような言葉使いに恰好をしているのだ?」

 源蔵の問いかけにびくりと体を揺らした少女。

 眉間に皺を寄せ、警戒心を前面から沸き立たせて源蔵にどうして、何故女だとわかったのだと言わんばかりの表情を向けてくる。

 源蔵はそんな瞳に応えるようにどんなに装っていても男と女ではその骨格や体つきが変わるものだと説明した。

「覗かねぇとか言って着替えを覗いたのか?」

「覗いているわけがないだろう。着替え等見ずとも分かる。僕ちゃんがガラスにへばりつい取るときにわかっとった事だ」

 そういう源蔵の言葉を未だ疑わしそうな視線を向けて疑う少女。

「男にしか見えんような凹凸の無い体を覗いたところでわしに何の得がある?」

 源蔵が更に言えば少女は口を尖らせた。

「見てないと言えば疑われ、見る気が無いと言えば機嫌が悪くなる。僕ちゃんはどうしてほしかったんだ」

 やれやれと溜息をつく源蔵。

 源蔵の言う通り、少女に性別女という特有の凹凸は見当たらず、野球帽を取った今は肩甲骨の辺りまである黒髪がさらりと落ちているが、その前までは野球帽の中に収められ、髪の毛の短い男の子といった風貌であった。

 通りすがりだったり、少女自身をじっくりと観察したりしなければ殆どの人が少女を少年だと思うだろう。

 ただ源蔵は自らの店先にへばりつくように存在した少女の、衣服が濡れ男の子ではない身体の曲線、背中を会話の間中見ていたわけで、嫌でもその違いは分かった。

「男と女というのはどんなにしても越えられない壁がある。男のまま、どんなに綺麗な格好をしようとも潜んでいる男性を隠すことは容易ではない。女も同じくな。其れこそ改造でもしない限り、男は体に無骨さを、女は体に柔らかさを持つ」

 からっぽのパイプでいかにも煙草を嗜んでいるそぶりを見せて言う源蔵に少女は「変な爺」とこぼす。

 聞こえるように言った嫌味であったが、源蔵はそんな言葉を気にすることなく少女に最初の疑問を再び問いかけた。

「で、どうして男の子風で居るんだ?」

 少女はその問いかけにひどく面倒くさそうな顔をしてため息を吐く。

「別にどうしてだっていいだろ。僕がどんなでも爺さんに迷惑はかけてないんだから」

「それはそうだな。だが、整ったきれいな顔をしているんだ。きちんと女の子らしくすれば、美人さんになるだろうに」

 そういう源蔵の言葉に少女の眉間には深く皺が刻まれていく。

 その様子に源蔵はなるほどと一人納得して更に言葉を続けた。

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