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そこには戸口に手をはさむようにしていれて閉まりかけた戸を止め、口を尖らせながらちらりちらりと源蔵の様子を窺う少女が居る。
少しの視線を少女に流した源蔵の瞳の端で少女は、往生際悪く、
「どうしてもって言うのなら、爺の服、着てやってもいいけど」
と源蔵に言ったが、源蔵は首を横に振ってそこまでしてもらう必要は無いと少女に言い放ち少女に止められていた戸を、更に力を込めて閉めようとする。
源蔵の態度に驚いたのは少女。
自分がそういえばそうかそうかと中にいれてもらえるものだと思っていたのに、逆に完全に突き放すように言われてしまい、どうしたものかと焦っていた。
しかし、その手はしっかりと戸を押さえ、源蔵が閉めようとする力を無理やり無効にして留める。
言葉とは裏腹に妙に必死になって戸を止める少女の姿に笑いが噴出しそうになるのを何とかこらえ、更に源蔵は言った。
「雨宿りまで止めろと言わん。雨がやむまではそこ居ればいいが、嫌々着替え、無理して本をみてもらう必要は全くない。それにわしは面倒が嫌いだ。嫌だというものを引き留めるのはひどく面倒でな」
少女の姿を瞳の隅に置きながらその反応を見、態度を微妙に変えて話す源蔵。少女の唇が最高潮であろう尖り方をした瞬間、最後の一言を源蔵が言う。
「それに、考えてみれば僕ちゃんのような奴にわしの店は不相応だ」
鼻で笑い、目の前の華奢な体に向かって「僕ちゃん」とわざとらしく呼称した源蔵に、ただ不貞腐れているだけだった少女の態度は見る間に変化して、眉間に皺を作りながら源蔵の横頬を睨み付けた。
「不相応、だと?」
少女の瞳の光の輝きに源蔵は少し寒気が自分の背中を掠めたことに気付き、じっと少女の瞳を見つめ返す。
子供の睨み方でも、ただ単に怒って睨んだ様な簡単なものではなく暗いけれども鋭く、光線のように射る瞳。
小柄な少女のどこにそんな力があるのかと疑いたくなるようでありながらもどこか納得してしまうような、闇がうごめく瞳に源蔵は負けじと冷たく突き放すような視線を向けた。
「この店は今となっては手に入らないそれは高価な本がある場所だ。僕ちゃんのお小遣いでは到底買えるような代物ではない」
「買えないから不相応って言いたいのか。人を見た目で判断しやがって、このくそ爺。不相応って言葉は僕が一番嫌いな言葉だ」
「ほぉ、其れは悪かったな。しかし、本当のことだ」
「ふざけるな。この店に相応か不相応か、それを決めるのは爺じゃねぇ。この僕自身だ」
威勢良く生意気な口はそのままに言って返してくる少女に源蔵は少し顔を少女に向け、感心したように小さく何度も頭を動かす。
その態度は少女からしてみればだからどうしたと言われている様で、腹立たしさよりも恥ずかしさのほうがむくむくと湧き上がってくる。
じっと、自分をただ黙って見てくる源蔵の視線に絶えかねた少女は自ら視線を外して俯き小さく舌打ちした。
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