店内で本を物色する女子と、頑固で偏屈な老人。


 一見すればつながりの無さそうな二人であり、この店に不釣合いな女子。しかし、この二人の出会いはそれほど変わった出会いではなかった。

 空は気持ちが晴れ晴れするほどの青空を見せているにもかかわらず、雨粒が路地を濡らしたその日。

 店先に申し訳程度に張られた庇の様なテントに人影が見え、源蔵は少し体を動かし、積まれた本の間から人影をじっと見つめた。

 すでにテントは穴だらけで、そんなテントに雨宿りと体を入れたところで濡れるのは目に見えている。それなのに入ってきた人影。

 古書店であるこの店は北向き建てられている。書店としては当然の事であり、日差しで本が傷まないようにするためだ。

 では何故申し訳程度のテントを店の入り口上に設置したのか。それは店名を入れるため。

 なので、決して日除けや雨除けのためではない。

 そこに店がある、それが分かれば良いだけだから穴が開こうが日に焼けてしまおうが修復されることは無かった。ゆえに、雨宿りであるとは思わず、源蔵は客が来たのかと思って体を動かしたのだ。

 店先に視線を向けてみれば人影はガラス戸の向こう側に立ち、空模様を窺っている。

 その様子に客ではないと判断した源蔵は、

(雨宿りをするならば、多少濡れてしまうが駅前通りの他の店に行って雨宿りする方が何倍もましだろうに)

 と内心、馬鹿な奴だと思って見ていた。

 この周囲に雨よけになるようなものは無く、源蔵の思った通りこの場所からだと距離を歩くことになるが、駅前の商店街まで出て行きその店先、または店内に入った方が、この場所で雨宿りをするよりも濡れることは無いだろう。

 だが源蔵は本人がそのつもりならそうすればいいと、その人影に助言することも、迷惑だと追い返すこともせずただ黙って瞳の端に人影を映しつつ様子を窺っていた。

 雨脚が徐々に小雨に変わる頃、店の外で佇んでいた人影がゆっくりとその場にしゃがみこみ、じっと動かなくなった。

 さすがの源蔵も何かあったのかとレジ前から慌てて店のドアまで小走りに向かう。

 あと数歩で店の入り口の引戸にたどり着くという所で源蔵はぴたりと足を止め、じっと蹲る人影を見た。

 顔色は良い、少し寒さに体が震えているくらいで別段どこかが悪そうなわけではない。源蔵の瞳に少年と映って見えたその人影は微動だにせずに源蔵が毎朝磨き上げている透明なガラス窓にへばりついている。

 一体何をしているのだと更に源蔵がガラス戸に近づいてやっと、うずくまる人影の瞳に源蔵の足が映り込んだ。

 蹲っていた人影は突然現れた足に驚き、のけぞる様に体を揺らして瞳を見開き、顔を上げた。

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