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店主の
しかし、この店にやってくる客はその偏屈で気難しいところなど気にするものは居ない。
類は友を呼ぶ、まさにその言葉通り、そのような類の本を求めるものは何かしら偏屈であり、頑固なのだ。
いつぞやか、メディアに取り上げられたときは源蔵にとっては不要な客が押し寄せ鬱陶しさもあったが、基本はのんびりと、1日に1人の客が来れば御の字というペースでの商売。
最近に至っては、電子が幅を利かせて人々が古い本を手に取ることは少なくなり、さらには偏屈な専門書を求める年齢層も高くなった。
それに付け加え、客層を選ぶ本はおいそれと手を出せるような価格ではなく、さまざまな要因が重なって美晴堂古書店の客は少なくなっていった。
それでも頑固な源蔵は店を畳む事はしないと頑張り続けのだが自らの歳には勝てず、とうとう店を閉めることとなったのだ。
「爺さんのこの店がなくなったら一体、僕はどこで本を読めばいいのかなぁ」
「書店など幾らでもある。お前さんにはインターネットというものもあるだろう」
落胆して肩を落としながら言う女子の質問に、源蔵は大したことではないといわんばかりに答えてやれば女子は更に肩を落とした。
源蔵の店にある本は初版本から絶版本、そして専門書。
希少価値の高いものがそこには集まっており、ゆえに価格も高かった。
しかし、他の店と違うのはその価格の高い品を自由に手に取り眺めて読み、買わずに棚へと戻しても文句を言われない事。
店によっては高価であれば店の奥にしまわれていたり、綺麗にビニールに包まれた姿で到底手の届かぬところに鎮座していたりする。
何より「それなり」でない者が手に取ればすぐにでも店員の目が光り始めた。
だが、美晴堂古書店はたとえ其れがうん十万、うん百万する本であろうと、「それなり」の者であろうとなかろうと立ち読み可能な店だった。
もちろん、乱雑に本を扱えば源蔵の制裁が下るわけだが、この書店に訪れるものは捜し求めてやってくる者が多く本の扱いは心得ている者が殆ど。
源蔵の長い店主人生でも制裁を下したのは片手の指で数えられるほどだった。
そんな貴重な古書店が閉店する、故に女子の顔は曇った。
美晴堂古書店以外の場所で、「それなり」に見えない若い女子が高価な本に手を伸ばしたとすれば、それは注意されるか監視対象になるだけで、見開きを見ることも無く追い出されてしまうだろう。
源蔵の言う通り、インターネットという手もある。
回線をつなぐだけで欲しい情報を捜すことの出来る便利な箱。
しかし、女子にとってはインクと古書の独特の経年の香り、何より1枚1枚紙を捲って読むということが重要であり、それが楽しみでもあった為、インターネットの味気なさはどうにもなじめないものであった。
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