第42話
その報せが届いたときから、オリエンテールの王城は騒ぎにつつまれた。
「魔王スリザリの旗です!! アンデッド軍が攻めてきました!」
アンデッド軍の来襲。
魔王軍勢と人間勢力の小競り合いは、過去からずっと続いてきたものだ。
だが、それは民衆や大臣たちからは遠く離れたもの。
勇者と呼ばれる、選ばれた存在が表立ち、決着をつけてくれるものだったのだ。
今回来襲する約20万の魔王スリザリ配下の軍勢。
オリエンテールの正規軍、国境防衛隊をあわせた2万の兵の約10倍。
国中からかき集めたとして、民からの募兵をし約10万が即応できる兵士数としての、限界だろう。
戦いになれていない民をアンデッドとの戦に巻き込めば、逆に相手へと戦力を献上する事態にもなりかねない。
しかも、相手は不死の存在である。
前代未聞の侵略者に対し、有効な手だてなど思いつくものはいなかった。
他国へ援軍を頼もうにしても、手遅れなほど接近されているうえ。
アンデッドなどと戦をかまえても、他国になんの利益もない。
オリエンテールは、南から迫るイナゴのような大軍に孤立無援の状態であった。
「主要な都市を砦とし、敵の侵攻を遅らせましょうぞ」
「ばかもの。戦力をあつめて、この王城のある主都を守るのが定石であろう」
「主都が残っても、他の都市が壊滅すればこの国は終わりじゃ!」
「ああ、なんという……戦力がケタ違いだ」
「防壁もこの戦力差じゃ、すぐに突破されて……堀を掘れば!」
「そんな時間はないじゃろうて!!」
右往左往する大臣たち。
机のうえには羊皮紙が舞い、ドタドタとメイドたちが忙しそうに駆け巡る。
決して彼らも無能というわけではなく、この国の基準ではしっかりとした教育を受け、国の施策に携わっている。
そんな大臣たちを尻目に、俺は連れてきた女の子たちに声をかける。
「頭がよくても、恐怖には勝てない。彼らは今まで、召喚した俺たちに魔王との戦いを押しつけてきたのだろう。だから、しっかりと向き合う今、その絶望が理解できて怖いんだ」
「……ご主人様、あのひとたちを助けるので?」
「もし、セツカ様がこの国を出るというならば。スレイはまったく未練などありません」
「ふーちゃんもです。国じたいを恨んではいませんが、あまりいい思い出はありませんからねぇ」
レーネも、スレイも、フローラも。
今になってあわてる大人たちを少し冷めた目で見ているようだ。
彼女たちの気持ちはよくわかる。
それに、俺も国などに未練はないが。
「相手は俺の名前を出した。なら、どこへ行ってもまた絡まれる可能性が残る。やってみるさ」
「ご主人様、やさしい……」
「セツカ様がいなければこの国は滅びますからね! 無能大臣たちはもっと自覚してほしいです」
「魔王なんて嫌いですぅ。セツカちゃんぶっとばしてください!」
ミリアを呼びに行き、大臣たちを広間に集めた。
地図を広げ、トップレベルの参謀たちが連なる。
そんな中、普通の高校生の俺が真ん中にいるのはなぜなんだぜとはもう言わない。
作戦会議だ。
「敵は三手に別れて王都を目指している。国境を越える直前で、進軍のスピードを極端に緩めた。これで情報は間違いないな?」
「ははっ。セツカ様に指揮いただくこと光栄に思います。筆頭大臣のカポルと申します。偵察隊長によれば、スケルトン兵士の中央主軍はのろのろと進軍しており、右翼のグールとゾンビの混成部隊がやや遅れて追従している形です。左翼の騎乗ゴブリンは、スケルトン主軍の道先案内をするように、離れて先を進んでおります。セツカ様のおっしゃった通りに、国境近くになりすべての部隊の進軍速度が極端に低下した模様です」
筆頭大臣カポルの報告では、アンデッドの軍勢は国境付近で急に進軍速度を緩めたということだ。
大臣たちは頭を捻る。戦力はあちらが確実に大きい。さっさと攻めてくればいいものなのに。
「ふむ。準備する時間を与えてくれる……か。ミリア、どう思う?」
ミリアに話を振ると、真剣なまなざしで地図をみつめながら答えた。
「誘われてる……?」
「当たりだミリア。さすがはS級の冒険者だな」
「えっ、えええっ!? も、もしかして今、わたしセツカに褒められたっぽい? ねえみんな、わたし今ほめられ……」
「というわけで、これは罠だ。魔王スリザリはこの軍以上の戦力を隠し持っているだろうな」
俺は大臣たちに事実を告げる。
どんな罠かまではわからないが、なにかあるだろうな。
そうすると、驚愕した大臣たちは頭を抱えて嘆きはじめた。
その姿は、あまりにも情けなかった。
「20万の戦力だけではなく、他にも敵がいると…………!?」
「お、おしまいですじゃ!」
「まだ死にたくないです……国を捨てて逃げましょう!」
「どうすれば……こんなの無理だ」
「人間が、魔王に勝てるわけないのですじゃ」
「うるさいぞヘタレども!! ぐちぐちと弱気ばかりぬかすな!!」
俺は、あわてふためく大臣たちにしっかりと宣言する。
「お前らがしっかりしなかったら、民が死ぬ。次に甘えたことを抜かしたら、俺がお前らを殺すから覚悟しろ?」
すこし言い方が強すぎたか?
すると、大臣たちは猫背になりはじめていた背筋をしゃんと伸ばし目をらんらんを輝かせはじめた。
「…………ありがとうございます、セツカ様。おかげで目が覚めました」
「わしはなにをおそれていたのじゃ? 死ではない。セツカ様に嫌われることじゃ」
「そうです。民のためにずっと働いてくださっていたセツカ様。セツカ様が逃げていないのに、わしらときたら」
「馬鹿だった。魔王などセツカ様にくらべれば雑魚じゃと思える」
「勝てる、勝てるのじゃこの戦!! セツカ様万歳」
悪口言ったら、大臣たちが急にやる気出した。
なんだかよくわからないのである。
「セツカ……(かっこいいよっ)ふふっ!」
「いや、その笑いかたやめろ。気持ちわるいから」
「なんかわたし、上げたり落とされたりされてる!?」
ミリアも俺の顔を見て笑ってくるし、真面目に作戦会議してほしい。
とはいったものの、戦力を整えて迎えうつぐらいが現状のベストだ。
「民に呼び掛け、兵力を充実させましょう!」
筆頭大臣のカポルは、現状とれる最良と思える選択を提示した。
民兵も合わせれば2万の兵力が、最大10万程度には膨れるだろう。
だが、その提案に俺は異議を突きつけた。
「いや、民兵はとらない」
「せ、セツカ様……それでは、10倍、もしスリザリが兵力を隠しているなら、それ以上の戦力と戦うことになります……戦争にもならずに蹂躙されてしまいます」
「カポル。お前の言う通りだ。だが、民兵はとらない」
「ど、どうしてでしょうか?」
腑に落ちない表情をするカポルや、他の大臣たち。
しかし、ミリアやレーネ、スレイとフローラは俺の考えを理解できたらしく。
なるほどと納得した様子で、すっきりとした笑顔を見せている。
そう、この国には俺の他にも、強大な戦力がいるじゃないか。
俺は、指をパチンと鳴らしてそいつらを招いた。
「この時のために、レベルを上げてもらっていたからな。秀名の2年B組。俺のクラスメイトたちだ」
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