第43話

 俺が合図すると共に、王座の広間に光の渦が巻き起こった。

 これは、転移の魔法陣が発動した証だ。

 気の弱いクラスの女子、ハヤサカの能力『転送』を利用した多人数召喚だ。

 元々ひとりずつしか送れなかったものの、今では座標さえわかれば複数の場所から、いつでもクラスメイトや仲間たちを呼び出せる。

 ダンジョンへと向かわせた際、俺の通信があったらハヤサカにその能力で戻るように言いつけておいたのだ。


「セツカぁ久しぶりだな!! 会いたかったぜ」

「セツカ君の呼び出しですか。ということは、問題発生ですかね?」


 不良のオニズカと野球部のサカモトがうれしそうに手を振ってくる。

 少し前まで奴らは俺のことをセツカ様と呼んでいたのだがやめさせた。

 オニズカがクラスの雰囲気を締め、サカモトがそのフォローをする。

 二人のリーダーを主軸にして、今の2年B組はなりたっているらしい。

 続いて、次々とクラスの連中が光から出てくる。

 すこしばかりたくましい顔つきに変わったように思える。


「シャワーあびたぁい……あっセツカ様!」

「ホント、ダンジョンってホコリっぽいからね。えっ、セツカ様いる!?」

「ねえつかえてるから早く前に進んで。セツカ様が見えないぢゃん」


 アリエルやイシイたちに人質にされていた三人娘、サエキ、オオバヤシ、ミワの姿も確認できる。

 彼女らは地味めで弱そうな女子としてアリエルにターゲットにされたのだろうが、最近じゃクラスの女子連中を引っ張ってダンジョン攻略を指揮しているとの話を聞く。

 学校ではうつむいて、なんだかよくわからないアニメのキャラ談義やゲームの話などを三人でしていたみたいだが、今では逆にそのオタク知識が存外役にたっているらしいのだ。

 ……やめろと言ったのに、奴らはまだ様をつけて呼んでくる。

 一通りクラスメイトを転送し終えたのか、ハヤサカが報告してくる。


「あ、あ、あの……これで、全部、だよ?」


「よくやったな、ハヤサカ」


「……………………。」


「もう行っていいぞ?」


「んぁ!? ご、ごめんなさいごめんなさい……」


 ハヤサカ、よくわからない奴だな。

 クラスはいくつかの小さなグループに分かれている。

 一番大きいのが、オニズカ・サカモト連合。

 とはいっても、不良連中がオニズカのもとに集まり、サカモトのもとには運動部が集まるかたちだ。

 こいつらが全部で8名程度。すべて男子だ。

 ここにサエキ、オオバヤシ、ミワたちのグループと女子運動部の奴らが追従するので、最大勢力になるのだ。


 秀才グループとあだ名をつけられている、成績学年二位のナカジマを中心としたグループ

 奴らは4、5人ほどでいつも固まっている。こちらも男子。オニズカとサカモトに対抗意識をもっているらしい。


 男子帰宅部グループ。ここはどちらにも属していない奴らが属する。いわゆる余り物たちだ。

 キシとアマネ、2、3名の覇気がない奴。そして学校では俺もここに属していた。


 すこし前までは、イシイたちのグループもあったな。



 女子連中はくわしく知らないのだが、

 サエキ、オオバヤシ、ミワのオタク三人娘連合がいつも5、6名程度。

 化粧の濃い、イシイ組と呼ばれていた女子が3名。

 女子運動部連合が7、8名程度。

 進学組と呼ばれる、大学を目指す女生徒の集まりが4、5名くらいか?

 ハヤサカはいつもひとりでいるが、特にいじめられているわけではない。

 女子たちはイシイが絡まなければおおむね平和に見えるが……。

 イシイにすり寄っていた奴もいたからには、水面下ではどんな争いが起きているかはわからない。



 これが今の、クラスの戦力だ。


 少しばかり遅れ、キシとアマネも王城に到着した。

 彼らは、ボブリスの奴隷だった獣人の少女たちを連れていた。


「セッちゃん、すごくひさしぶりー。クラスのやつらもおひさー。うちらを追い出したくせに、もー普通にダンジョン来るのどんだけー?」

「ホントだよセッちゃん!! あいたかったよ! みんな俺とアマネを追い出した恨みは忘れないんだからな! 絶対に許さない!」


 などとちくちくクラスの奴らにトゲを刺しているキシとアマネ。

 以前アリエルと共にダンジョン攻略をしたときに、二人はあらぬ罪をかけられ置き去りにされたのだ。

 死にかけたのだから恨んで当然なのだが、キシとアマネはへらへら笑っていた。

 二人はこの世界でかなりの金持ちになっている。

 奴隷の獣人たちと共に営む商売が軌道にのったらしい。

 めちゃめちゃ真面目に働く従業員を手にいれた二人は、獣人を大事にする経営者として有名なんだと。


「うっそだ、ぷー」

「もうきにしてないよみんな。セッちゃんの呼び出しだ。一緒によろしくやろう」


「あのときはすまねえな、キシ。アマネ。セツカのために仲良くやろうぜ?」


「わかったわん、オニズカきゅん」

「……オッケイ。またクラスのみんなと合流できてよかったよ」


 ……キシもアマネも、アリエルとイシイに強要されていたクラスメイトのことは気にしていないみたいだな。

 だがムカつく。あとで俺が殴っておこう。

 キシたちが引き取った10名の女の子たちは、みんな元気になっていた。

 瀕死の状態の子もいたのに、よくここまで回復してくれたものだ。

 そのなかでも一番小さい、猫獣人の女の子がてとてと歩いて近づいてきた。


「あの……かみさま」


「……かみさま?」


「かみさまって。ダンジョンで助けてくださったので、あなたさまを、かみさまって呼ぼうってみんなできめました」


「いや、それはさすがに言い過ぎだろう」


「そんなことないですっ」


 すると、様子をうかがうように眺めていた獣人女の子たちがいっせいに駆け寄ってきた。

 そして土下座かと思うほど頭を下げる。

 10人にやられるとさすがに驚くぞ、それ。


「あ、ありがとうございましたっ。……やっと言えたっ」


「あの、あの、ありがとうございますかみさま!」

「今、わたしたちが生きているのはかみさまのおかげです」

「こんなに幸せになれるとおもいませんでした。ありがとうかみさま!」

「ずっとかみさまにあいたかったですっ。ほんとうにありがとうございます!」

「たすかってからずっとかみさまのことを考えてました。ありがとうございました!」

「とても楽しいんです。自分たちで、稼いで生きて。ありがとうかみさま!」

「しにかけて苦しかった。でも、かみさまのおかげで助かりました! ありがとうございます!」

「ありがとうございます! どんなにつらくても、かみさまのお顔をおもいだせばやっていけます」

「どうか、私たちを自由におつかいください。なんでも働きます。ありがとうございますかみさま!」


 獣人少女たちに崇め奉られるようにされてしまう俺。

 さすがにこれは、ちょっと……なんというか。


 ■――羞恥心を『殺し』ましょうか?


 やめいスキルよ。

 生き仏のように獣人たちにおがまれる俺を見たオニズカとサカモトは、目をキラキラさせながらこう言った。


「すげえな……俺たちもがんばってレベル上げてきたと思ったけど、セツカは神になってたのか……かなわねえぜ」

「次元が違うようですね。セツカ君は、生きているだけで仏の領域なのかもしれません」


「お前ら。こんなことしてたら話が進まんから」


「ご主人様はかみさまですっ」

「当然ですね。摂理です」

「ふーちゃん精霊神ですが、保証しましょう」


「レーネ、スレイ、フローラまで。お前らは、いい子だな」


「あ、あのさ。わたしもセツカは神レベルでその、かっ、かっこいいかなーって……」


「よーし。じゃあ冗談はここまでにして、状況を説明するぞー。人数増えたから何度も説明させんなよ。一回で覚えるんだぞー」


「えええっ!? 王女であるわたくし、無視されたの? なーちゃって」


「はいはーい。始めるぞー」


「ぎゃあ、結局無視された!?」


 ミリアまで便乗し始めると収集がつかなくなるので、とりあえずここまでにして話を進めよう。

 同窓会をしている場合ではないのだ。

 キシとアマネについてきた獣人の女の子たち、彼女たちも戦力に組み込んで大丈夫だろう。

 それとレーネ、スレイ、フローラ、ミリアたちも戦ってくれる気でいる。

 合わせて、この国と一蓮托生であるクラスメイトたち。

 国が滅びる危機。それを、俺たちの手でなんとかしなければならない。

 カポルら大臣たちは椅子と机を合わせ、王座の間に巨大な戦略室をこしらえた。

 中心に俺が座り、皆の顔を見回す。

 さて、状況を始めようか。



 広げた大きな地図を囲んで、俺は絶対的不利をひっくりかえすための妙案を頭の中に思い描いていた。

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