第38話
結果から伝えると、グーテンはスレイに倒された。
「ギャァアアアアアアアッ!? このグーテンさまが、こんなにも簡単にやられるなんてぇええっ!?」
「もう最悪っ!! なんてタイミングで出てくるんですか悪魔族っ!! えいえーいっ!!」
いとも簡単にスレイの強力な魔法によって、羽交い締めにされたグーテン。
しかしその瞬間、奴は持っていた怪しい瓶を井戸のなかに落としてしまったのだ。
悪魔をとらえたまでは良かったものの、井戸の水が毒で汚染されてしまった。
これじゃこの街の水が使えない。
すると、騒ぎをききつけた街の住民が集まってきた。
「宿の主人です。井戸がこれじゃ、今日は店を閉めるしかありませんね……」
「居酒屋の主人です。水が使えないんじゃ、店をあけることはできません」
井戸の様子に困り果てた顔をする宿の主人と居酒屋の主人。
その様子を見たスレイは、泣きそうな顔で主張する。
「えっ。ちょっ。ちょっと待ってください。ねえセツカさま!! この私、スレイが井戸を浄化しますからっ! 大丈夫です。一時間もあれば、このくらいの井戸の水はすべて浄化できますっ!! だから、今日はここに泊まりましょ!? お酒をのんで、スレイと泊まって帰りましょうよ~!」
「スレイ。そんなことを言って、宿屋の店主と居酒屋の店主を困らせてはいけない。今からじゃ夕方になってしまう。それからじゃお店はあけられないだろ?」
「そんなぁ~!? セツカ様……ぐやじぃ。ガードの固いセツカ様でも、お酒をのんじゃえばエッチな気分になるかと思ったのにっ」
すると、スレイが魔力で生み出した白い蛇で捕らえていた、悪魔グーテンはこう言った。
「へっ。なんだか知らねえが、ざまあだぜ」
「うるさいぞ悪魔!! 貴方のせいで私とセツカ様の貴重な初めてのチャンスをのがしたのですけど!? 責任をとりなさい!!」
「な、なんの話だぜ? ぎゃあぁぁあぁっ!?」
グーテンは白蛇に締め付けられ、ミチミチと音をたて破裂した。
あっけない最後だ。
おそらくレーネのときのように、スレイの力も向上しているのだろう。
真顔でグーテンの命を奪うスレイは、なぜか大粒の涙を流していた。
そして毒で汚されてしまった井戸に向け、スレイは清純な魔力を放つ。
聖女サリアナの子孫であるスレイにはこういう不思議な力も備わっているみたいだな。
なんだか一気にテンションが下がったスレイ。
「はあ浄化してもセツカ様と泊まれないなら、なんだかやる気でないです」
「スレイ! そんなことを言ってはいけない。街の人が困っているだろう?」
「むーっ。なら、きちんと井戸は浄化します。そのかわりにご褒美が欲しいです」
「いいだろう。俺があげられるものなら、なんでもいいぞ」
そう伝えると、スレイは目をキランと光らせる。
「……欲しいものがあります」
「あ、なんでもいいと言ったが大人のキスはだめだからな」
子供たちは仲がいい。
俺をからかおうとして、この前のレーネの話を共有している可能性があるからな。
最初にそれは潰させてもらう。
すまんなスレイ。これが大人のやり方だ。
俺がそうやって牽制すると、スレイはそう言うことを予測していたかのように顔色を変えずこう言った。
「なら、セツカ様の下着をください!」
「…………ん? 聞き間違いか?」
「ですから、セツカ様が今、はいてらっしゃるおパンツがほしいのです」
「いや、待て待て」
「なんでもくれる約束でしたよね、セツカ様?」
にっこり微笑む王族スマイルのスレイは、いつにも増した迫力でぎゅっと腕を握ってきた。
確かに約束したが、大人のキスよりもハードルが上がった気がするのだが?
「た、たしかに約束した」
「ですよね、ですよねセツカ様。私、王族でしたから耳はいい方なんです。さあ、セツカ様ここで脱ぎましょう。今欲しいです。スレイに、セツカ様の脱ぎたておパンツをお渡しください!」
「スレイが壊れた……お、おい脱がせようとするな」
ズボンに手をかけてきたスレイをなだめる。
顔をほてらせながら迫りくる彼女は、いつも冷静で儚げなスレイのイメージとは正反対だった。
おとなしい子ほど裏には爆発的ななにかを隠しているのだろうか?
「スレイ落ち着け。とにかく、井戸を浄化してから。話はそれからだ」
「わっかりました! スレイ、急いで井戸を浄化します! セツカ様はおパンツの準備をしておいてください!」
非常に困ったことになった。
目を爛々と輝かせながら井戸に手を突っ込むスレイを尻目に、俺は頭の中でスキルに相談していた。
なあ、パンツ複製できる?
■――あらゆる原子・分子を『殺せ』ますし結合を自由自在に『殺せ』ますので可能です。
マジか、なら、
■――しかし、その提案は『殺し』ます。
スキルが反抗した!?
いや、このままだとパンツとられたまま帰ることになるんですが?
■――羞恥心を『殺し』ましょうか?
真剣な相談なのですが?
どうか言うことをきいておくれ。
若干、スキルに嫌味っぽいことを言われつつも。
複製した『ご褒美』をスレイに渡すと、スレイはまるでダンジョンの最奥で見つけた秘宝のようにそれを抱き締め喜んだのだった。
「ありがとうございますセツカ様! スレイ、この宝物をいっしょう大事にいたします。イシュタル王国を復興したら、国宝として祭り上げる気でおります」
「それはやめてくれ」
「うふふふ、うふふふふっ。あはははははっ。セツカ様の肌に触れていた下着……うふふふふっ。じゅるり」
「あの、スレイ。頼むからよだれを垂らしながら笑うのはやめよう」
そして、本来の目的である井戸の増設だ。
俺の『殺す』スキルで新たな井戸をいくつか新造し、この街の問題は解決だ。
新しい井戸にも、清潔な水が沸きだしてくる。
すると、噂を聞きつけたのか若い領主がやってきたようだ。
「こ、これはこれはセツカ様ではありませんか!!」
「あなたがこの街の領主か。見ての通り、水の問題は解決した。これは国王であるミリアの指示のおかげで……」
「お、おおお素晴らしいっ。握手をさせてくださいっ。街の皆様も、セツカ様と新たな幼い聖女様が悪魔を倒し毒を消し去ってくださったと噂しております。それのみならず、新たな井戸までつくってくださるとは……さすがは国王セツカ様だっ」
「セツカ様!! セツカ様!! セツカ様!!」
「これは俺じゃなく、ミリアのお陰で……」
「セツカ様万歳ー!! セツカ国王様さいこうー!!」
「はぁ、やれやれだな」
「セツカ様の、セツカ様の、うふふふっ」
興奮したスレイを引っ張り、俺はまた失敗したっぽいなと頭をかきながら家路を歩くのだった。
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