第32話 聖女の思惑を×そう!⑩
「ご主人様~! すごくかっこよかった。勝つってわかってましたけど……わたし、どきどきしちゃいました!!」
「スレイも、両親の仇をとって頂き嬉しく思います。これで全て報われました。私は、イシュタルの復興の一歩をやっと踏み出せそうな勇気が出てきました。セツカ様ありがとうございます!!」
「ふーちゃんも救われました。3000年の因縁にさよならです……精霊神として感謝します。これからもずっと、セツカちゃんの元で笑って過ごしたいですぅ!!」
「おいおい、そんなに抱きつくと苦しいぞ?」
やれやれ。
クラスメイトや王城の人たちが見ているから少し恥ずかしいな。
レーネとスレイ、フローラの頭をもう一度撫でてやる。
キャッキャと喜びを露にする女の子たち。おしくらまんじゅうじゃないんだから、そんなにくっつかなくても。
ミリアが指をくわえ俺たちを眺めている。
「私もその……ありがと。私も抱きつきたいんですけどー!?」
「ミリアは大人だからダメだ」
「アァハハン!! セツカのいじわるっ!!」
だって、ミリアと抱きついたらクラスメイトに誤解されるじゃん。
クラスメイトたちはそんな俺たちの姿を見て
「おいおい、セツカあんなに可愛い子たちを彼女にしてるのか? ちょっと、ありえないレベルだぞ? う、羨ましい」
「すげえな。本気で惚れてるみたいだ。あんな子たちが懐くセツカを助けなかった俺たちは、見る目が無かったみたいだな。情けない」
「そうね。女としてあの子たちに敵うとは思えないわ。しかも人として魅力があるからあの子たちついていってるみたい」
「……ごめんなさいセツカ。俺たち、聖女に従ってしまい迷惑をかけて」
「セツカの彼女さんたちにも迷惑かけてごめんなさい。許してもらえないかもしれないけど……」
「本当に申し訳ない、心から謝ります」
「セツカの彼女さんたちも、ごめんなさい」
おいおい、勝手に誤解して頭を下げるな。
そして普通に違う。
この子たちは彼女じゃない。大事な子供たちだ。
見ればわかるだろう。彼女たちは綺麗だけど幼いだろう?
すると、迷宮尺皮袋からオニズカが出てくる。そしてクラスメイトたちにこう言った。
「おいおいみんな。セツカなんて呼ぶのはやめろ。セツカはセツカ様だ。あのイシイを余裕でぶっ倒したヒーローなんだからな!!」
後から出てきたサカモトが続く。
「そうです皆さん。セツカ様は僕たちのためにイシイの暴挙を止めてくれた。勇気のない僕たちを無視して、他の場所で静かに暮らすこともできたのに」
「全く、とんでもねえ凄え男だぜ。すっかり惚れちまったよ、俺はよ」
「ははっ。オニズカ君が言っているように、男も惚れるような強さだったよ。サエキさん、オオバヤシさん、ミワさんや他の人も無傷で無事だよ」
サエキ、オオバヤシ、ミワと他の人質が袋から出てくる。
彼女たちはクラスメイトが無事な姿を見て目に涙を浮かべる。ホッとした表情だ。
クラスメイトたちの顔に笑顔が戻る。
人質にとられた者を心配していたのだろう。
「やったーっ!! すげえ、みんな無傷で勝っちゃったのかよ」
「サエキたちを取り返したのか……なんて強さだ」
「セツカ様……イシイに従わなかったのは前からだったけど、まさか勝っちゃうなんて」
「やべえ、こんなことあるんだ。あんなに最悪なヤツに勝てるんだ」
「セツカ様すげえっ!! そりゃ惚れるわっ」
やれやれ。
全く、イシイたちに従っていたくせに手のひらを返しやがって。
まあ、クラスメイトたちは力で従わせられていただけだからな。
こいつらに恨みはない。これからは自分の力でやっていくんだな。
「ありがとうセツカ様!!」
「ごめんよ、今まで本当にごめんセツカ様」
「助けてくれて本当に嬉しいよ、なんでも言ってね、私のできることならなんでもするから」
「かっこいいよ、セツカ様」
「マジですごいよセツカ様っ!!」
まったく、うるさいやつらだな。
「あっ、ご主人様……顔が赤くなってます」
「なってないぞレーネ? 全然なってないぞ?」
「か、可愛いですセツカ様!! スレイにもしっかり見せてください!!」
「意外ですねぇ。セツカちゃんは大勢に褒められると照れちゃうみたいですねぇ。よしよしですぅ」
スレイもフローラも、からかうんじゃない。
俺は全然顔を赤くしていない。
「わ、私も……セツカのこと、あの……かっこいいと、思うよー?」
「うるさいぞミリア」
「ええっなんでぇぇええ!? なんで私だけそんなに冷静な対応なのーっ!?」
「知らん」
抱きついてこようとするミリアの頭を抑える。
「あの綺麗な人もセツカ様の彼女?」
「やばっ!!」
「セツカ様さすがだな。クールビューティーって感じの子がデレデレだ」
結局、ミリアも彼女の一人だと勘違いされてしまった。なわけあるか!!
俺の静かな暮らしは実現するのだろうか? やれやれだ。
ん、なんだか周囲がざわつき始めた。
「ど、どうしましょう。王が不在では国が……」
「困りました。まさか聖女が裏切り者だったとは……」
「ミリア様、あなた様が王族だったとは」
「イシュタルのスレイ様が、まさか3000年前の聖女様の子孫だとは」
大臣たちが騒ぎ始める。
王が死に、聖女が居なくなったのだ。
国の維持のためには、リーダーを早急に決める必要がある。
ミリアは頬をぽりぽりと掻いた。
「あ、あたしが王族だったなんて……全然イメージがわかないんですけど」
すると、大臣の一人がこう言った。
「ミリア様が王女様で、スレイ様が本当の聖女様の子孫だとすると……王不在の場合、お二人のご指名する方に一時的に王の権利を預けることができるという法律がありますが……」
なるほどな。後見人のような制度か。
大臣の誰かを指名して、ミリアが政治に慣れるまでそいつに任せればいいわけか。
よかったなミリア。これから大変だと思うが、しっかり国を運営するんだぞ。
「なら、セツカにお願いするわ」
「でしたら、セツカ様が適任です」
おいおい何言ってるんだ二人とも。
俺はまったく無関係の一般人だぞ? 国の運営などやれるわけがないだろう?
「た、確かに偽の聖女を見抜いたセツカ様ならば……」
「そうじゃな。このお方ならばお任せしても問題はなかろう」
「うむ。私たちは聖女の悪事を見抜けなかった。国のためを思うなら、このお方のような素晴らしい視点をお持ちの若者に」
「お前ら、馬鹿なのかな?」
俺の静かな生活……。
なんだその書類は? ちょっと、スレイそれに判子押すなよ!!
ミリアもなんだそのニヤニヤ顔は!?
「セツカ。いつものおかえし♥」
は?
おーい。これどうなってるんだ?
「セツカ国王様、よろしく。あたし、前からセツカにはこのぐらいの器は当たり前だって思ってたよ」
「セツカ様、スレイは嬉しゅうございます。セツカ様の覇道の第一歩、国王への道を私が開くことができたなんて。一緒にたくさんの国民(こども)をつくりましょう」
大臣の一人が高らかに宣言した。
「ミリア様とスレイ様の調印により、セツカ様がオリエンテール王国、代理の王に選抜されました。セツカ王の誕生です」
え?
誰かこの状況に突っ込め。
おい、レーネ、フローラ?
おかしいだろコレ?
「ご主人様、王への就任おめでとうございます!! ご主人様なら当たり前の身分です!!」
「精霊神として祝福しますぅ。がんばってセツカちゃん!! やっと世界がセツカちゃんに追い付いてきましたねぇ」
ダメだ、二人ともキラキラした目で俺を見つめている。
味方は誰もいないのか?
「ついに王になっちまったぜ、セツカ様……」
「すごすぎるわ。私たちの想像の何倍も上をいくのね」
「セツカ王……セツカ様。どっちで呼ぶべきだ?」
「ちょっと……私も好きになってきたかも」
「ダメだよ、だって王女様と聖女様の子孫、それにモフモフ可愛い獣人の子と胸が大きい精霊神がライバルになるんだよ? 勝てる?」
「勝てない……」
「とにかくすげえええセツカ王!!」
「セツカ王! セツカ王! セツカ王!」
クラスメイトたち、お前らそれでいいのかー?
頼む。誰でもいいから、俺の静かな生活を取り戻してくれーっ。
こうして、聖女アリエルの思惑は俺のスキルで『殺され』た。
払った犠牲は大きい。なんで俺が国王なんかになるはめに?
やれやれとため息をついて、喜びに満ちた皆の顔を見回す。
まあ、よかった……のかな?
イシイの呪縛からも解き放たれたクラスメイトたちにとっては、ここからがまともなクラス転移の始まりだ。
しかし、俺はまだ彼らにあることを告げていない。
その事実を告げたら彼らは、果たして希望をもって生きていくことが出来るのだろうか?
■――召喚魔法の仕組みを『殺し』ます。……エラー。何者かに試行を妨害されました。元の世界への再召喚は困難です。
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