第30話 聖女の思惑を×そう!⑧
■――女生徒ハヤサカの転移スキルの仕組みを『殺し』ました。コピーし再現。王城広間へと転移します。
女の子たちと共に王城の広間へと戻ってきた。
クラスメイトや王城の大臣たちはあまりの急展開に口を開けぽかんとしている。
支配者の陥落。三日天下よりも早い没落。
王城を裏から支配していた聖女が、いつも自信たっぷりだった女が地面に倒れ伏している。
形勢逆転だ。
「ぐっ、な、なんでセツカ様がふたりいるんですか!? イシイ様たちはどこに!? それよりも……人質の気配が消えている。一体どうやって!? 今のイシイ様があなたに負けるはずがありません!!」
「質問ばっかりだな、聖女アリエル? 目の前の現実を受け入れろ」
俺の分身に殴られた顔に、回復魔法を掛ける聖女アリエル。
声を荒らげ、俺たちを指差し叫ぶ。
「あ、ありえないです!! イシイ様の能力は私の加護でかなりのパワーアップをしていました。あなたの能力でも、彼の契約した空間は突破できないはずなんですっ!!」
「ありえてるからここに俺がいる」
「全ては最初から俺の掌の上だ」
「さて」
「次の手はあるのかアリエル?」
ん、分身がいると声がハモって気持ち悪いな。
■――同位対の存在を『殺し』解除します。
これで分身の方は消えて俺に統合された。
時間制限はあるが分身の記憶を引き継げる。かなり便利な能力だな。
「ふ、ふざけた能力ですね。拷問した時には発動しなかったくせに、今になってこんなに私を邪魔するのですかセツカ様? どうして私の言うことに従わないのです!? どうしてっ!!」
「馬鹿かお前は? 三流映画の悪役以下の動機で国を滅ぼそうとしているお前に従ったら、俺は静かに暮らせないじゃないか」
「きぃいいいっ!! 私に従わない男なんて要らないです!! 国を滅ぼす? 違いますよセツカ様。人間を新しいステージに導くのです。だって、人間なんてゴミ同然じゃないですかっ!! 必要経費なんですよ」
「そう思っているのはお前だけだ。ゴミのような人間なら確かにいるがな」
「うるさいっ、うるさいうるさい!! 見下してるんじゃねーよ人間の分際でっ!!」
お前や、イシイたちのような他人を簡単に傷つける存在は人間ですらない。
ゴミだ。いや、ゴミ以下だ。
悪臭を放ち、近くのモノを腐らせる醜悪な存在だ。
そうすると、俺の後ろにいたスレイが一歩前に出る。
彼女の国イシュタルはオリエンテールの依頼で暗殺集団七人衆に襲われたのだ。
王が殺された今、真実を知るのはこの聖女ぐらいだろう。
スレイはきゅっと結んでいた唇を開き、勇気を出して声をあげる。
「どうしてイシュタルを滅ぼしたのです? なぜお父様とお母様を殺したのです!? イシュタルは争いを望んではいなかったというのに。どうして!!」
「スレイ姫……あなたなーんにも知らないんですねえ。あなたの魔眼、どういう由来でそんなものが身体に残されているか不思議じゃないんですか?」
「私の魔眼……? いったいなんなのです?」
くつくつと嗤うアリエル。
頭がおかしくなったのか?
しかし不気味な余裕が奴の顔から見える。まだ何か手札を持っているのか?
アリエルはゆっくりと語りだす。どうやらスレイの疑問に答えるらしい。
「3000年前、ある聖女がオリエンテールを守護していました。クソむかつくその聖女の名は、サリアナ。救国の銀髪姫なんて呼ばれて調子に乗っていました。その聖女はある森に住み、オリエンテールに降りかかる呪いを振り払い、召喚された勇者に強い力を与えていました……彼女はとある教会に住んで、真っ白な長い銀髪と赤い瞳が特徴でした。あれれー。誰かととても似てますね?」
アリエルは続ける。
「ある時、超絶美少女アリエルが偶然クソ銀髪聖女に命を助けられました。超絶美少女アリエルは苦しんでいました。どうしてこんなに優秀なのに誰にも評価されない。どうして私だけがこんな目に。あげくにクソ聖女に情けまでかけられて……そのクソ銀髪聖女の身の回りの世話をすることにしました。でも……本当はクソ銀髪に感謝なんかしてなかったのでした。だって、私の方が上手に聖女できるもん。私、天才だし」
アリエルは顔を歪ませ微笑んだ。
嬉しそうに、記憶を掘り起こしながら。
「最初はしっかり聖女に尽くしました。尽くして従って、安心させまくりました。油断させたら、簡単に心を許した銀髪聖女は余裕でぶっ殺しましたよぉ。その時の顔!! えっ!? って感じの、裏切られ顔といったらありませんでした。ざまあ、これで私がこの国の聖女だ。能力は全て奪ったつもりでした。だけど、誤算があったのです」
アリエルは怒りに顔を歪ませる。
「子供を作ってたんですよ!! あの聖女サリアナ!! 召喚した勇者と、内密に子孫なんか残してたんですよ穢らわしい。その証拠が魔眼です。それは呪いじゃなくて聖女の子孫だという証なんですよ? ビックリしました? 私は驚きましたよ。まさか3000年前にぶっ殺した聖女の子孫が繁栄して国まで造ってるんですから。クソうざいですねえ」
「え……じゃあ、私は」
「ええ。スレイ姫。あなたはクソビッチ銀髪聖女サリアナの子孫なんですよ。血はかなり薄まりましたのであまり注目してませんでしたが、うざかったので国は滅ぼしました。気分は良かったですねえ」
「そんな、そんな理由で国民をっ!! みんなは関係ないのにっ!! お父様とお母様をっ!!」
「うるせえな。負け犬は黙ってろよ。お前らに聖女の力が分散したせいで、私はいらない苦労をさせられまくったんだ。例えば、深淵の森……あの森の呪いを封じるのに生け贄を用意したりねえ」
深淵の森……森の教会。
全てが繋がった気がする。
あの森には昔、聖女サリアナが住んでいた。
今俺たちが住みかにしている教会に、一人で住んで国を守ってたのか。
サリアナを殺したアリエルは、その力を奪って聖女に成り代わった。
しかし子孫がいたため、力を全て奪えていなかったということか。
そして、アリエルの話が本当なら呪いを封じるためにフローラをあの場所に閉じ込めたのも奴か。
フローラは、激怒していた。
「お前が私をあそこに封印したですかぁっ!!」
「そうだぞクソエルフ。私の指示でお前はあそこに閉じ込められたんだぞありがたく思えよ? お前なんて人間以下の亜人風情なんだから、長い間の封印で精霊神になれたことを逆に感謝してほしいくらいです。良かったでしょう?」
「くうぅぅぅっ!! ずっとひとりぼっちだったのにっ!! 親も兄弟ももう死んでしまったのにっ!!」
「当たり前でしょう? 何年経っていると思っているんですか?」
「許せないですぅっ!!」
怒りに飲まれそうになるスレイとフローラ。
俺はしゃがみ込み、激昂する彼女たちを抱き締める。
腕から小鳥の心臓のような鼓動が伝わってくる。
彼女たちは、ふっと力を抜いて身体をあずけてくれた。
涙を流す二人。つらいよな。理不尽だよな。
大丈夫だ。無念だろう。だから、俺に任せてくれ。
何も言わなかったが、スレイとフローラはぎゅっと抱きつく力を強めた。
「ひどいです。スレイ、フローラ。わたしがついています」
「なんて女を聖女にしていたんだ……あのような女だったとは、……つらかったよね」
レーネとミリアも暖かく包むように彼女たちを抱き締める。
俺は立ち上がり、全ての元凶を指差し尋ねる。
「それで、お前の正体は何だ? 3000年も生きているんだろう? アリエル。お前は何者だ?」
「聖女アリエル……というのは無理があるようになってきましたねえ。まあ、潮時でした。私は魔女。古から存在する魔の使い、大魔女アリエル!! ありとあらゆる呪術と魔法に精通し、聖女の能力を吸収した。人間を越えた存在なのですよ」
「はぁ。くだらない」
「なんですか!! そうやって言ってられるのは今のうちです。イシイ様を倒したぐらいで得意になられては困ります。全て
は私が与えた加護による能力。対抗手段はすぐに思い付くのですよ」
「加護は聖女から盗んだ能力だろう」
「きぃいいぃっ!! いちいちうるさいですねセツカ様!! あはははっ! そうだ、これがあった」
アリエルは思い出したように懐に手を入れ、何かの感触を確かめたようだ。
「あはははっ。勝ったつもりでいるのですか? 私にはコレがあるのですよ? 不死者の心臓!! セツカ様がわざわざ取ってきてくれた超レアアイテム。ここで使うつもりは無かったのですが、こうなってしまったからには仕方ありませんねえ? セツカ様、どうします? ここでこのアイテムを使ったら。100万のアンデッド軍勢が召喚されて民衆が蹂躙されてしまいますよ? こうやって切り札とは使うものです!!」
あー。あれね。
うわーたいへんだー。
それ使ったら、たいへんなことになるぞー。
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