第29話 聖女の思惑を×そう!⑦

 怪我をしていたオニズカとサカモトの治療を終え、拘束されていたクラスメイトたちを解放した。

 レーネはてとてと駆け寄ってきて、俺の腕に身体をこすりつける。

 尻尾の毛は緊張がとけふさふさに戻っていた。


「ご主人様、すごくかっこよかったです。相手に何もさせないまま倒しちゃいましたね!!」


 太陽のような笑顔が可愛い。

 スレイも近くにやってくる。


「セツカ様、おつかれさまでしたっ!! 更正のチャンスは与えられていました。彼らにはそれを理解できる頭がなかったのでしょう。セツカ様はとてもお優しいのに」


 腰に抱きついて上目使いをするスレイ。

 すっかり安心してリラックスした表情だ。

 脚に腕を回したフローラは微笑みながらこう言った。


「セツカちゃん、すごかったですよぉ。うんうん。自分がしてきた行為の残虐さに気がつければ、セツカちゃんの優しい罰の意味にも気づけるでしょうが……あの人たちには無理でしょうねぇ」


 ……フローラはイシイたちに与えた罰の意味に気がついていたか。さすがは精霊の神か。

 よしよしと三人の頭を撫でると、ふんわりとした気分に包まれる。

 これは、安心……解放感か。

 クラスメイトをいじめていた奴らの末路。

 彼らには地獄のような結末が待っているだろう。

 あと少し待っていろ、聖女も|彼ら(・・)と一緒にしてやるからな。


 ■――無念の想いが『殺さ』れました。恨みに囚われた魂も解放されるでしょう。


「ん、スキルの奴、何か言ったか?」


 まるで今までイシイたちに虐げられた無念の想いが礼を告げている。そんな気がした。



 人質にされていた女子サエキ、オオバヤシ、ミワは半べそをかいて座り込み抱き合っていた。

 イシイに乱暴される寸前だったのだろう。制服は所々が破れ下着が見えている。

 目のやり場に困るので、毛布をいくつか渡したのだが。 


「ありがとうセツカ……いえ、セツカ様」

「わたしたちのこと、助けてくれるなんて。聖女が怖くてあなたのこと見捨てたのに」

「イシイたちに勝っちゃうなんて、本当にすごい。セツカ様って呼ばせてほしい」

 

「見捨てられたことは気にしてない。あんな状況だったし。だからお前たちも気にする必要はない。今回はお前らを助けるというより、自分の中で区切りをつけたかっただけだ。だから感謝などいらない」


「いえ、セツカ様にいつかきちんとお礼をさせて欲しいの。これまで勇気を出せなかった私たちの、せめてものお詫びに……」

「セツカ様のためならなんでも言うこと聞くよ? イシイが嫌で距離を置こうとしたら捕まったの。怖かった、もう少しで酷いことをされそうだったの。助けてくれたセツカ様は王子さまだよ」

「そうね。私たちはこれからずっとセツカ様の言うことを聞くわ。イシイや聖女の言いなりなんて嫌だったもの」


「どうでもいいがセツカ様はやめろ。仮にも元クラスメイトだろ?」


「おねがい呼ばせて!! 呼びたいの!!」

「私たちが勝手に呼ぶの。迷惑はかけないから!」

「セツカ様って呼ばせてくださいセツカ様!」


「はぁ、やれやれ勝手にしろ」


 目立たない女子グループ三人は謎のテンションで盛り上がっている。

 はぁ、様付けで呼ばれるの実は恥ずかしいんだけどな。

 どうしても呼びたいと懇願されてしまったので仕方ないか。女子の気持ちはよくわからないな。


「セツカ……」


 少し距離を置きオニズカが立っていた。

 その隣にはサカモト。こいつらはイシイに利用された災難な奴らだ。

 オニズカは頭を掻き少し照れた様子で口を開く。


「また助けられちまったな、セツカ。とうとうイシイの暴走も目に余るところまで来てたから、どうすっかサカモトと話し合ってたところで奇襲されちまったんだ。迷惑ばっかかけてすまねえ。ありがとうな」


 サカモトも真面目な口調で頭を下げてくる。


「ありがとうございます。セツカには助けられてばかりです。僕もお礼と謝罪を言わせてください。イシイたちの暴走を止められたのは僕とオニズカ君だけだったのに」


「礼は必要ない。俺の目的を果たしただけだ」


 オニズカとサカモトは根が真面目だな。だからこそ強いスキルを授かり、そしてイシイに利用されたのだが。

 モゴモゴと口を動かした不良のオニズカは、恥ずかしそうにこう言った。


「お、俺たちもセツカ様と呼んだほうがいいか? 俺はぜんぜん呼んでもかまわねえぞ」


「必要ない!!」


「なあ、サカモトもセツカのこと……呼びてえよな?」


「うん。僕はこれからセツカの言うことを聞いてこの世界で生きていくべきだと思う。だから、リーダーのセツカはセツカ様だ。僕はセツカ様と呼ぶことに喜びを感じるよ」


「な? サカモトもこう言ってる」


「なじゃない。なんだその理論は?」


 頬を染めるなよオニズカ。

 サカモトもその言い方色々な誤解を生みかねないだろ?

 キャーキャー興奮するなよ地味女子クラスメイト供。

 いったいなんで様をつけて呼ぼうとする?


「ご主人様、男の方まで誘惑されるんですね……レーネ、心配です。うぅ」

「スレイ的にはアリですけど、第二婦人的にはナシですねー」

「ふぇええ、ふーちゃんの知らない文化ですぅ」


 女の子たちまでドン引きしてるじゃないか。

 やれやれ。


「しかし、イシイたちはどうなってしまったんだ? こりゃまるで……」


 オニズカが俺に尋ねようとする。

 すると、サカモトがそれを制止した。


「聞くべきじゃないと思います。セツカ様は僕たちの領域を越えた裁きを彼らに行った。それは正しい。オニズカ君もその点はわかるでしょう?」


「あ、ああ。そうだけどよ」


「見届けましょう。僕たちがすべきは邪魔にならないこと。これから、セツカ様は聖女のいる場所へ戻るんですよね?」


 サカモトはそう言った。

 そう、イシイたちとの戦いは終わった。

 残るは聖女ただ一人なのだ。


 安全のため、クラスメイトたちを迷宮尺皮袋の内部へと避難させる。

 レーネたちほどの戦闘力は持たないため、彼らには隠れていてもらう。


 ■――ダンジョン生成の仕組みを『殺し』ます。ダンジョンクリエイト発動。

 ■――空間跳躍魔法の仕組みを『殺し』ます。

 ■――三つの物体を跳躍転送を開始。

 ■――空間維持、次元固定、時間操作の仕組みを『殺し』ます。


 ■――準備完了。余念を殺しました。いつでも発動可能です。


「よし。さすがは『殺す』スキルだ。文字通り余念はない」


 するべき準備はすべて終えた。

 あとはタイミングを待つ。



『人質を半分殺してください』


 来た。

 聖女の魔力が通信され、むなしく部屋のなかに響く。

 受信する人間はもういない。

 だから俺が代わりに返事をしてやろう。


「人質はゼロだぞ?」


 通信の先から息をのむような声。

 びびってるびびってる。

 さて、戻るとしますか。

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