第18話 遺跡ダンジョンを×そう!②
現在、遺跡ダンジョンへと向け進行中……。
これは出発するすこし前の話だ。
レーネだけを呼び出して、椅子へと座らせ向かい合う。
彼女は俺の真剣な様子を感じ取ったのだろう。尻尾の毛をとげとげにさせながら緊張しているみたいだ。
「レーネ。これから、君の元主人が関わっている遺跡ダンジョンへと行くことになった。場合によってはそいつとの戦闘も考えなければいけないだろう。君につらい記憶を思い出させたくない。もしよかったら、ダンジョンにいる間はずっと教会の中で休んでいないか? 教会を収納する迷宮尺皮袋は俺が守る。安心して全て終わるまで待っていてくれればいい」
「あの……ご主人様、ご配慮をありがとうございます。でも、わがままを言ってもいいですか?」
「ああ。なんだい?」
「わたしのこころはすべてご主人様のものです。だから、ボブリスの名前が出たとき、とりみだした自分がとてもくやしくて、なさけなくて……わたし、もう乗り越えられますから。あの男をみてもなんともおもいませんから、だからいっしょにつれていってほしいです。ご主人様がいますから、もう、こわくないです!!」
「わかった。俺が馬鹿だった。一緒に行こうレーネ。君はつよい」
「えへへ。ご主人様、レーネつよいです。だいすき!!」
レーネは決意を胸に秘めているようだ。
金色のふかふかした頭を撫でてやると、レーネは長いまつげを揺らし目を細める。
なんか可愛すぎるな、この子。やばいぞこれ。天使すぎる。
彼女は胸に飛び込んできて、頭をぐりぐりと押し付けてきた。
もふもふの天使を抱き締めるとお日様のにおいがした。
さて、遺跡ダンジョンに到着した。
時間は深夜。うしみつどきである。
三人の女の子たちは皮袋に収納した教会へと帰り、すやすやタイムだ。
子供は残業しちゃいかん。残業は大人の役目だ。
ま、俺もまだ高校生なんだが。
■――睡眠時間を『殺し』ます。脳の疲労を回復。
■――体の疲労を『殺し』ます。
■――筋肉の限界を『殺し』ます。走行速度を引き上げます。
オリエンテールの端まで、走ってやってきた。
走れメ○スも真っ青の『殺す』チートは、疲労を殺し寝ずに走り続け、国境付近まで半日も経ずに到着することができた。
正確には測っていないが、フルマラソン10回分は走ったのだろうと思う。全く疲れを感じないのが怖い。自動車にでもなった気分だな。
たぶん俺、友情の力じゃ300mくらいしか走れないだろうな……などとくだらないことを考えつつも、『殺す』スキルに感謝し。
「ここが遺跡ダンジョンか」
どう見てもギリシャ建築です。
これを自然に湧き出て来たと言い張るのだから、摩訶不思議な世界である。
ペニーワイズの言う伝説ではある日、この場所に神殿のような建物が湧いて出て来たというらしい。まるで畑に出る雑草のように。
表層部分へと足を踏み入れる。分かりやすいように続く地下への階段がある。ああ、行きたくなーい。
薄暗いし湿っぽいし、唸り声とか聞こえるし。はぁ。なんで俺がこんなこと……。
仕方なく階段を下りようとする。
「はあはあ、まにあった。ちょっ……ちょっとハアハア、待ちなさいってば!!」
「おわっ!?!?」
ば、ばけもの!?
いきなり肩を掴まれて変な声を出してしまった。
殺意がないから『殺す』スキルが発動しないのか……心臓が止まりそうになったが。
「化け物を見たような顔で驚かないでよっ!? いい加減名前覚えてよね? 剣鬼のミリアだって!!」
「はぁお前か。どこにでも出没するな? いったい何の用事だ?」
「あんたが置いていったんでしょ!? 一緒にダンジョン攻略するって約束したじゃない!! せっかく、お弁当だってつくってきたのに、ダンジョンの中で一緒に、ごにょごにょ……」
人差し指をあわせ、こねくりまわして、うつむくミリア。まったく歯切れの悪い奴め。言いたいことがあるならちゃんと言えばいいものを。
それに一緒にダンジョンを攻略する約束など一切していない。
「何の話だ!? 約束なんて知らないぞ?」
「あれ、お母さん言ってなかったの!? セツカに言ってって言ったのにぃぃいい!! もぉおおお!! これじゃ私が勝手に押しかけた変な女みたいじゃないぃぃいいい!!!」
ペニーワイズに頼んだのかよ!? というか、そのぐらい自分で言え。言われても断るが。
てかうるさくすんな。静かなのが好きなんだよ。
はあ、マジか。
「でも、もうきちゃったし。しかたないわよね……うん。しかたないわ!!」
ミリアは後ろ手に組むと、にっこり微笑む。
ふふんと軽く自信ありげにこう言った。
「し、仕方ないわね。一緒についていってあげるわよ。本当だったら、S級のあたしを雇うとものすごい金額が動くのよ。でも今回はべつにいいわ。特別よ? お金じゃないもの。ねえセツカ、ダンジョンでは油断は命とりよ? 生き残りたかったら、あたしの後ろに隠れているのね。じゃ、行くわよ」
「ひとりで行きたいんだが?」
「アハハハァーンお願い。一緒にいこ!? 一緒にいこぉーよぉー!! 役に立つから!! セツカの役に立ちたいからぁ!!」
どうしてこうなるんだろうな?
ダンジョンですら静かに攻略できない運命なのか。
スキルよ、俺の静かな生活を無意識に殺そうとしていないかい? 嫌がらせ的に。
結局、ミリアと共にダンジョンへと潜ることになった。まあ、経験者がいれば心強いことにはかわりないか。
ゲギャギャ。
ゲギャギャぎゃ。
三階層。
ダンジョンモンスターとやらは、外の魔物と違って時間で湧き出してくるらしい。
そして死んだら死体がダンジョンに吸収される。
殺せば血などは出るが、時間経過すると跡形もなくなっている。
まるでゲームのエフェクトみたいに光って地面に取り込まれるのだ。
「みてみてセツカ。フッ――!!」
と言いつつ、細身の剣で抜刀術を繰り出しているミリア。
ギイィィ!?!?
ギャアアアア!?
ピィィイイイ!?
相手はゴブリン。数は15体ほどだ。
囲まれた状態の女剣士ミリアは、白い鞘に収められた細剣の柄に手をかける。
その次の瞬間には、ゴブリンのサイコロステーキが出来上がりである。
ミリアの周囲を囲んでいたゴブリンは、一斉に地面へと倒れ落ちた。
刀身が全然見えない。というか剣をいつ抜いたかわからないぐらい速い。
もしかして……ミリアって強いのか?
「うーん。三階層じゃ、あたしの力をセツカにわかってもらえなかったかな? ゴブリンじゃ一割の力でもこんなものね。ねえセツカ……」
■――自動攻撃スキル『殺す』発動します。こちらに敵意を持つモンスターを殺します。
ギャッ!?
ゲピ!?
ギキィ!?
ピギッ!?
ギィィ!?
「こんなものか」
「えええぇっ!? セツカ今動いてなかったよね!? 立ってただけだよね!? どうやってゴブリン倒したの!? しかもあたしよりも全然多いし!! すごっ……い、いやまだよ。ここから下の階層はもっともっと強いモンスターが出てくるんだから。あたしが守ってあげるから、セツカは油断しないように気をつけるのよ?」
油断はしていない。
髪の毛を気にして何度も直したり、チラチラ後ろを振り返ったり、たまに後ろ歩きで俺に話しかけてくるてめえが一番油断しているんだよ。と言ってやりたい。
そうやって順調にダンジョンを攻略していった。レーネたちは朝の時間になったら起こしてあげる約束をしている。
この分だったら、10階層ぐらいで朝の時間かな。そしたら一旦休憩して、みんなで朝食でもとろうか。
7階層の階段を下りたところで、ゴブリンよりもすこし強いホブゴブリンに囲まれている人影をみつけた。
「……くっ、がんばれアマネ。こんなところで俺たちが終わっちまうなんて絶対にいやだ。こっから出て、元の世界に戻って結婚するって約束したじゃないか」
「でももう、私の能力が……キシくん。あなただけでも逃げて。私はおとりになってここに残る。ゴブリンにどうされたって、私、キシくんのこと忘れないよ?」
「アマネ、ごめんな。それはできない。ゴブリンにアマネがひどいことされるくらいだったら、俺はここで奴らと刺し違えてでもお前と添い遂げる!」
「キシくん……」
「アマネ……」
クラスメイトのキシ♂とアマネ♂であった。
よし。無視するか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます