第19話 遺跡ダンジョンを×そう!③
遺跡ダンジョン7階層にて。クラスメイトと再開した。
キシとアマネだ。どちらも男。
彼らを簡単に説明すれば、なんていうか……カップルである。
クラス公認の、そういう奴らである。
クラスカースト的に最底辺ではあるものの、本人たちが気にしてないこともありイシイにもほぼターゲットにされていなかった。
まあシカトされていたとも言うが。近寄らなければ人畜無害な奴らだ。
キシが男らしい言動をし、アマネは女の子っぽいくねくねした動きをする。顔もそこそこ可愛かったりする。だが男だ。
二人の中で男の役と女の役があるのかもしれないな。
はぁ、今マジでどうでもいい情報が脳裏によぎった。あいつら二人のことは忘れても大丈夫だろう。
「ちょちょちょ!! セッちゃんじゃなーい。たすけて!! ピンチピンチ。私達の貞操がうばわれちゃうー!!」
「セッちゃん、久しぶりだな。大丈夫だったのかよ? なんか更にいい男の顔つきになった気がする。ああん、たすけてー犯されるー!!」
ずいぶんと余裕あるじゃないか。
キシとアマネは、ホブゴブリンに囲まれながら両手をあげこちらに振っている。
二人で抱き合いながら涙まで流して。はぁ必ず犯されないから安心しろ。
ゴブリンにだって選ぶ権利はある。
「ねえ、あの二人は知り合いなの? 助けなくていいの?」
とミリアに尋ねられたので。
「モンスター同士の同士討ちだろう。俺には関係ない」
と答え通り過ぎることにする。
「あひぃー殺される、助けてください!!」
「セツカお願い、クラスの奴らに置いてかれちゃって、もう力が……」
やれやれ。
■――スキル発動エリア内のホブゴブリンを『殺し』ます。
げが!?
キギャ!?
ビギッ!?
ギャァ!!
ギギッ!?
「一瞬で全滅!? あ、相変わらず強すぎね。いくらゴブリンといえど、上層で戦ったのより耐久も素早さも上がってる奴なのに。敵に認識すらさせないなんて、どんな武術を……セツカってばなかなかやるわね」
ミリアは嫉妬の混じった溜息をついて、じっとこちらを見つめてくる。
しかしこれはスキルのお陰なので、俺はこう答えることにする。
「こんなの簡単さ。俺の力じゃない。ミリアの剣の方が全然強いぞ?」
「あ、ありがと。なんだかセツカのこと誤解していたみたい。もっと傲慢な人なのかと思ってた。ほんとうはとても謙虚なのね……もしかして、私にだけそうやって優しくしてくれてる? こんなの見せられたら、あなたが物凄い実力を隠してるって認めざるおえないわ……」
……何言ってんだこいつ? 別に何も隠してなどいないが。
勝手にもじもじとして顔を赤らめているが、話が見えない。
と、そういえば忘れてた。
「セッちゃんありがと~」
「助かったよ。命の恩人だ!!」
キシとアマネが抱きついてくる。
横にかわすと、二人は勢いよく地面に転がった。
はぁ、どうして助けてしまったのだろう。
溜息の数が加速度的に増えているのを感じていた。
「聖女様がクラスの皆に呼びかけたんです。遺跡ダンジョンを攻略すると魔王に対抗するアイテムを手に入れることができるって。だから、俺たちは準備を整えてダンジョンに侵入したんですけど……」
「キシくんと私は、皆に置いてかれちゃったの。役立たずの泥棒はここで死ね。って言われて、とっても怖くて。キシくん……怖かったきゅん」
「そうさ。俺とアマネは反対したんだ。敵が結構強いし、こんなに急いで深く進攻したら怪我人が増えるって。アマネ。大丈夫さっ」
「そうしたら、私とキシくんが皆の食料を奪った濡れ衣を着せられて……」
「アリエルに」
「うん。聖女アリエルに!!」
「キシくん……」
「アマネ……」
どうでもいいけど、二人で一斉に話すのやめろ。腹が立ってくるから。
べたべたべたべたくっつくのもやめろ。
キシとアマネの話をまとめてみる。
「ということは、聖女アリエルはきたる魔王と勇者との戦いのために、50層にあるマジックアイテムを手に入れる。という名目でクラスメイトたちを引き連れてここに来たというわけか。ところで、お前らボブリス伯爵って知ってるか?」
「ボブリス?」
「誰? この世界の有力者かなにか?」
「知らないのか? クラスメイト達は聖女アリエルからその辺の詳しい話は聞いてないってことか。なんかキナ臭いな。まあいいか、俺には関係のないことだ」
クラスメイトには詳細を伝えず、ダンジョン攻略の戦力として利用しているのだろう。
問題は聖女アリエルが不死者の心臓を手に入れて何をするつもりなのか、だが。
本音を言えばそこまで関わりたくない。今回は不死者の心臓をボブリスの手に渡らないようにする。これが俺の目標だからだ。
ボブリスの目的が国を支配すること。これの阻止のためにここに来た。
あの女が何をたくらんでいるかまでは知ったことじゃない。
「お前らこれからどうする? 王城には戻れるのか?」
「……これからどうしよう。アリエルに嫌われたから戻れないと思う。もう、住む場所がないや」
「私たち、捨てられちゃったね。きっとこれは罰だよ……セッちゃんがいなくなったとき、私たち探せたはずなのに、みんなに逆らうのが怖くて探さなかった。ごめんなさい」
「っていうか俺たちはみんなに嫌われてるから、大人しく従う方を選んだんだ。イシイだって騒いでいたし、心の中では嫌だって考えた人はいたと思うけど。セッちゃんが森に捨てられたって聞いて、怖くてみんな怯えてしまったんだ。許してほしいセッちゃん」
「セッちゃんが許してくれるなら、私の、アマネの体で満足してくれるならいくらでも。セッちゃんならどうされてもいいっ!!」
「お、おいアマネ。それは……いや、このキシの体も自由にしてくれセッちゃん。お願いだ許してくれ」
「いらない。黙れ。抱きつこうとするな。許す許さないとかじゃなく、最初から気にしてない」
俺が王城を追放されたことは、むしろ好機だった。
自分の実力を把握するいい機会だ。
同じレベルのもの同士で争いは生まれる。
クラスメイト達に個人的な恨みはない。
蟻んこを眺めて恨みつらみを募らせるのは、異常者のすることだ。
やりとりを眺めていたミリアが感心したように口をひらく。
「すごいわね。セツカったら、この人たちを断罪するどころかきっぱり罪ごと無かったことにするなんて。だって、こいつら見てみぬふりをしていたんでしょう? 仲間が苦しんでるのに、そんなの一番酷いわよ。なるほど、だから最初に見たとき、セツカのことが気になったんだ。不思議な目をしていたの。ちょっとだけ悲しいような、気になる瞳!」
ミリア。勝手な解釈をするな。
「お前はドラゴンスレイブのせいで泣き顔だったがな」
「アハハァァァァン!! 今三代目です!!」
そして二人にセツカその可愛い子彼女? と聞かれるくだらないくだりは省略し。
キシとアマネに回復薬を渡しておいた。
俺とミリアは先に進むことにする。そろそろ起き出してくる女の子たちのためにすこしでも先に進んでおきたい。
キシとアマネは地上へと出たら、冒険者ギルドへと向かうことになるだろう。
金貨一枚。
冒険者ギルドの登録料である。
余計なことをしないでもいいのに、ミリアは俺の知り合いだからと言って、ペニーワイズの名前を出せば何日間か宿屋の割引をしてもらえるとか二人に吹き込んでいた。
お前こそ、なかなかのお人よしじゃないか。
ま、奴ら二人は仲がいい。集団生活よりも冒険者として気ままに暮らすほうが幸せかもしれないな。
さて、10階層に到着した。
遺跡ダンジョンの中は煌々と明るく、象形文字のような模様が壁に刻まれていて不思議だ。
迷宮尺皮袋から教会を取り出し、セッティングする。
ダンジョン内は広く、問題なく建物ごと収容できるスペースがある。
待ちわびた朝ごはんの時間だな。
女の子たちを起こそうか!
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