第17話 遺跡ダンジョンを×そう!①

 サムズの件があってから。

 風雲急を告げるように状況が変わりつつある。

 ボブリス伯爵の情報は手早く集めることができた。

 サムズもそうだが、ミリアが八面六臂動き回った。俺のためとか言って国中のボブリス伯爵の情報を集め回ってくれたらしい。どうしてそんなにやる気だすんだろうな?


 結果、かなり面倒なことになりそうだ。

 遺跡ダンジョン。

 オリエンテールのはずれに位置する、広大な廃墟のような様相で地下階層を擁する巨大自然構築物。

 現在ボブリスはそこに篭ってあるアイテムを手に入れようと試みているらしい。


 ――不死者の心臓。 最下層50層にあるらしいが。


 真っ赤に輝く美しい宝石だと言われるマジックアイテムは、100万の軍勢を自由自在に操れるという伝説だ。

 ボブリスがそれを手に入れた暁には、その軍勢を率いてオリエンテールを支配する気でいるらしい。

 そのために莫大な金と物資と、奴隷の命がつぎ込まれている。

 藪をつついて出て来たものは、むじなやたぬきどころかまっくろくろすけの腹黒糞野郎だったらしい。


 更に面倒なことがある。

 聖女と愉快なクラスメイトチームまで遺跡ダンジョンの攻略に乗り出しているという事だ。

 彼女たちはボブリスの目的を知ってか知らずか、こぞって遺跡にもぐり切磋琢磨している最中らしいのだ。

 けったいな。そんなとこに絶対に行くかよ。

 報告を貰いに冒険者ギルドに出向いたら早々、ペニーワイズはこんなことを言ってきた。


「お願いですーセツカ様、冒険者ギルドと商人ギルドからの特命を受けてはいただけないでしょうかー。どうか、ボブリス伯爵より早く不死者の心臓を取ってきて欲しいのですー。このまえ林檎の蜜亭の予約も取ってあげたことですしー。ねっ!!」


「普通に嫌だが。俺はレーネに危害が及ばない範囲でボブリスから離れられればそれでいい」


「ボブリス伯爵が不死者の心臓を手にしてしまったら、この国は隅々まで不死の軍に蹂躙されるでしょうねー。そうしたら、綺麗に生まれかわったレーネちゃんが伯爵に見つかってしまいますー。結局、ぶつかりますよ? 彼女と伯爵はー? お願いしますよー。ね、この通り私の胸ならいくらでも触っていいですからー」


「やな奴だあんた!」


 とやなばば……お姉さまにお願いされ俺は断り辛くなった。

 つまり面倒なクソアイテムをボブリスより先に見つけて捨ててしまうか、ボブリスを黙らせるしか俺の静かな生活は続行不可能というところまで来ているということだ。


「ギルドから裏報奨金も出しますー。ボブリス伯爵を止めてくださったら金貨1000枚ですー。正直、国が滅びるかどうかの瀬戸際なのでー」


「微笑みながら言うなよ」


「……笑う門には福きたるですー。笑うしかないとも言いますー。王城が何もしないので、冒険者ギルドと商人ギルドが結託して動きましたー。依頼するのに一番的確な方としてセツカ様が挙がったわけですー残念でしたねー?」


「この街には色々と世話になっている。勝手に滅びられるのも困る。やるしかないか」


「セツカ様のそゆとこ大好きですー。もしよかったら娘の代わりに抱いてくれません? ベッドは空いてますよー」


「うるさい!!」


 ペニーワイズの相手、つかれる。


「ご主人様、だいじょうぶですか?」

「セツカ様今日はペニーワイズ様も強引でしたね。それほど追い詰められているのでしょうか……」

「あの女の人ちょっと怖かったですぅ。性欲モンスターですぅ」


「ああ。問題ないさ」


 三人に心配されつつ、教会へと戻った。


「…………というわけなんだ。みんな、しっかり留守番できるかい?」


 俺は女の子たちを並べ、しっかりと言い聞かせようとする。

 しかし女の子たちは焦ったように駆け寄ってきて俺の脚にしがみついてきた。


「いやですご主人様、すてないでください!! いっしゅんも離れたくないです!!」

「そうですよセツカ様、ひとりでダンジョンに行くなんて駄目です。さみしくて死んじゃいます!!」

「ふーちゃんたちも連れてってくださいぃ。じゃないと、ふーちゃん邪神落ちしてしまいそうですぅ」


 うるうると瞳を潤ませる女の子たち。

 困ったな、能力的にはこの子たちを連れて行っても全然問題はないし、むしろ俺の近くにいた方が安全っちゃ安全なんだが。

 そうだ。魔王に貰った迷宮尺皮袋があったな。

 アレに全部持ってけないかな?

 スキルに聞いてみると、マジかどうやら出来そうだ。


 ■――建物に対する圧力負荷を『殺し』ました。

 ■――重量、重力の影響、耐久減少度を『殺し』ました。

 ■――斥力、反発力の影響を『殺し』ました。

 ■――時間の経過による変化を『殺し』ました。破損が無効になります。


「よーし、レーネ。持ち上げてみて!」


「はい、ご主人様!! ええいっ。ふん!」



 ずん。ずずずずん。ずごおっ。



 森の中の教会は、レーネの片手で持ち上がる。

 斜めになりながら天高く持ち上げられた教会は、迷宮尺皮袋の中へと収納された。

 これで家ごと小さな皮袋の中に収納できたわけだな。

 魔王の置いていった物もなかなか役に立ったな。


「よしみんな、これから遺跡ダンジョンに行くけど、しっかり歯磨きは忘れないこと。あと夜はしっかり九時には布団に入ること。それとバナナはおやつに入ります」


「わかりました、ご主人様!! やった、やった、ご主人様とダンジョンだ!!」


「私、ダンジョン初めてです。セツカ様と出会わなかったら出来なかった経験……初体験が私を待っているのですね!!」


「ふーちゃんの精霊力を発揮するときがきましたねえ。ふふふ、3000年モノの精霊ちからを見せてあげましょう!!」


 忘れ物は……家ごと皮袋に入れたんだ、あるわけないな。

 よし、出発しようか。

 若干の遠足気分で俺たちはオリエンテールはずれの遺跡ダンジョンへと向かって歩みを進めたのであった。




 ……。



 ……。



 ……。



 ……。



 ……。



 ……。




「ちょっと約束の時間より遅れちゃってごめんね。セツカ、あの、お弁当作ってきたんだけど。別にあんたのためとかじゃなくて、これからダンジョンとかにいかなきゃいけないじゃん? でも、やっぱ慣れてるS級のあたしがついてったほうがいいと思うんだよね。正直、遺跡ダンジョンなら30層までなら舐めプでいけるし。いや、嘘じゃないし? それでさ、あたしと一緒だったらたぶんボブリスよりも早く50層までいけると思うんだよね。そしたらさ、終わったあとダンジョンの中でお弁当……食べてくれてもいいよ? えっ、別にそのために作ったわけじゃないけど、でも沢山つくりすぎちゃったからさ、ははっ。あたしってばコラコラって感じだよね。ねえ聞いてんの!? …………家がねえ!?!?!?」


(約束してません)

 

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