第15話 湧き出るスライムを×そう!
イシイの襲撃があったような気がしたけどもう忘れた。
あいつ誰だっけ? 忘れるとは俺も歳か。
それより、今日も可愛い女の子たちと楽しいことをしよう。
「ご主人様、今日はどんなことをするんですか? わたし、今からたのしみでうきうきしちゃいます!!」
「私もこれまでと違う準備だったのでどきどきです。セツカ様はまた新しいことにチャレンジなさるのですね?」
「えへへ、ふーちゃんも荷物もつですぅ。持っていく装備から考えると、戦闘でもするですかぁ?」
彼女たちは目をきらきらさせながら俺の後をついてくる。怪我をしないように、簡易的な
さて、今日はいつもと違い皆には周りに気を配り注意するように伝えてある。
今まで木工の単純な製品やりんご飴など、正直やる気のない商品を売って日銭を稼いできた。
商業ギルドに裏切られ、情報を売られたためイシイに俺の存在を嗅ぎ付けられた。今は商業ギルドと手が切れた状態なので、ほかに売り込む新たな製品の開発にせまられたのである。
販売ルートの改善を考えた。
冒険者ギルド長であるペニーワイズに俺たちの新商品を販売委託することに決めたのだ。
冒険者たちは商人と違い、数多くの商品を捌くというより、珍しい品物を欲しがる傾向がある。
目をつけていたプランのひとつを実行するときが来たのだ。
ぷるぷるぷる……。
「あっ、ご主人様、スライムですよ? 可愛いですね。たくさんいます!」
獲物を発見したレーネはふさふさの尻尾を揺らして敵を知らせた。
そして三人は物怖じせずに近づいていく。
「えっ、どれですか? 私も見たいです。スライムってどんな生き物ですか? 実物は見た事ないんですよ。え、ちょっともにょもにょして気持ちわるいですね!? つついてみると、ひゃっ!? なんですこの感触。ぷにぷにでいやだぁ」
ちょんとつついたスレイは、白い肌を真っ赤に染め頬を両手ですりすりした。
なんか可愛いなそのしぐさ。
「ふーちゃんは結界から出たことがなかったのでぇ、魔物とであうことがなかったですぅ。ちょっと怖い……中でなにか動いてますねぇ。えええなんだか卑猥ですぅ」
フローラに至ってはまじまじと見つめて赤面しているようだ。
いったい何を想像したんだい?
みんな興味しんしんだな。
スライム。
この世界では特に珍しくない、深淵の森にも大量発生している魔物の一種だ。
青いゼリー状の直径一メートルくらいある巨大なくず餅のようなモンスターだ。
服を溶かしてのしかかり、じゅるじゅるとしてくる危ない奴。
女の子たちは三者三様の感想を抱く。
だが、今回は彼女たちにも活躍してもらう予定だ。
「さあ、ここに大繁殖したスライムが沢山いるね? これを捕まえて殺すんだ。そして、それを材料にして俺たちは製品をつくる。これが今日の仕事さ。辛いだろうけどこれが生きるということだ」
命の授業。
スライムたちに罪はない。か弱い女の子的には色々と危ないけど、まだ奴らに罪はない。
しかし、増えすぎると森の食べ物を食べつくしてしまうし、女の子も危険だ。
俺たちも生活のために何者かの命を犠牲にしながら生きなければいけない。
女の子たちに嫌われるのは承知の上だ。もしこれから俺がいなくなってしまった時に世間のこうした不条理をしっかり把握しておけば躊躇いを消せる。
今日は彼女たちにこのスライムをやらせる。
スライムにやらせるわけじゃないよ? 女の子の服を溶かすスライムを殺る。
スライムの命を使い、金をもうける。
こうした生きる仕組みを教えようと考えたのだ。
きっといつか彼女たちのためになる。あえて『殺す』という言葉をつかった。
さあ戦うのだスライムと。ぬるぬるのねちゃねちゃと。さあさあ。
でも、可愛いと言ってたし嫌がるだろうな……。
「わかりましたご主人様。やあ!! はぁっ!! 沈めスライム!! やあっ。つぶれろ。ご主人様のために糧となれ!! ほらほら、ほらっ!!」
「承知いたしましたセツカ様。魔法詠唱を短縮。氷の力で砕け散れスライム!! あははは、粉々になってセツカ様の道を美しく飾れっ!! あはははっ!!」
「ふーちゃんは精霊神ですが、スライム相手にも手は抜きません。全力です。『
あれ? 予想と違う……。
嬉々としてスライムをボコる幼女たち。
ちょっと顔を赤らめて気持ちよくなってる感じがするけど、気のせいだろう。
なるほどな。
これはでは間違いは起きないな。
今日の仕事は早く終りそうだ。命の大切さはまた今度教えようか。
楽しそうに闘ってるけど、ここのスライムは呪いのせいでかなり強力なやつになってたはずなんだけどな。
その討伐ついでだったんだけど……どうやら俺の出番はないみたいだ。
結局見える範囲のスライムを全て狩り、その汁を絞って迷宮尺皮袋へと入れて持ち帰る。
加工は俺のスキルでやるか。恐らくスキルがなくてもできるが、時間がかかりすぎる。
■――不純物を『殺し』ました。
家に戻って早速加工を始める。
必要な物質だけ分離させたスライム汁を迷宮尺皮袋から取り出し、巨大な器にあけた。
三人が頑張ったのでかなりの量だ。一度には加工しきれないな。
まず、スキルでスライムの汁から不純物を取り除く。
■――物質間の結合を若干『殺し』ました。温度が上昇します。
純度が高まったスライム汁を溶点まで温度を上げ、あらかじめ作っておいた型に流し込む。
ここまで数分。やっぱりスキルはヤバイ。楽すぎる。
そして冷えるまで待てば。
「できた。キャンドルの完成だ」
スライムの体液を蝋の代わりにした、蝋燭の完成だ!
「きゃんどるですか? ご主人様、これはいったいどういう製品なのですか?」
レーネは不思議そうに出来上がったものを見つめていた。
この世界では魔法があるから、こうした蝋燭が発展していない。
しかし庶民は魔法の明かりを高い金を出し買っている。
さすがに魔法には利便性では劣るが、売れないことはないんじゃないかと考えた。
何より夜の蝋燭の火は暖かいのだ。
「火をつけてみよう。部屋を暗くして、みんな集まって……」
部屋の中が、蝋燭のゆれる光に照らされる……。
「はうぅ、ご主人様。なんだかうれしい気分になります。これってすごいあたたかな光ですね」
「綺麗です。たよりない光ですが、それがいい……暗闇に映し出されるセツカ様が素敵です」
「これって、すごい発明なんじゃないですかぁ!? ふーちゃんも知らない、みたこともない装置ですぅ。なんだか神々しいですぅ」
「みんな気に入ったみたいだね」
いけそうだな。
冒険者たちは日々、生きるか死ぬかのプレッシャーに押しつぶされそうになりながら生きている。
こうした『癒し』の製品はきっと人気になるだろうな。
「じゃあみんな。色々な型をつくって、沢山作ろうか。手伝ってくれるかい?」
「はい、ご主人様!」
「私もお手伝いしますセツカ様!」
「ふーちゃんもがんばるですぅ!」
今日は夜までかかりそうだな。
だけど彼女たちもやる気充分だ、とても頼りになる。
わいわいキャッキャと騒ぎながら、キャンドル作りは順調に進んでいった。
夕方ごろになり、そろそろ夕飯の支度をしようと考えていたところ。
教会の玄関が叩かれたのである。
「……すみません、セツカさま、セツカさまのご自宅はここで間違いないでしょうか?」
若い男の声。
面倒ごとの気配をさせてやってきたその男は、憔悴しきった表情をして扉の前に佇んでいた。
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