第14話 イジメの元凶を×そう!②
オニズカとサカモトは一言も発せず光に包まれ消えていった。
イシイの契約で呼び出され転移してきた時のように、俺のスキルによって再転移させられる。
さようなら。多分王城付近にある住処に戻っただろう。それよりも。
「は……え……な、なにが!?」
相変わらずの馬鹿丸出しだなイシイ。もうちょっと冷静に対処したり、こういう絡め手をやってくる敵について考えておけ。こんなのじゃ俺じゃなくてもいずれ負けたな。
奴は唇を震わせながら目を見開いている。現実を直視できないでいるのか?
つーか契約を殺すのなんて息をするより楽にできるな。
お前、敵としてオークより弱いぞ?
「な、なんでオニズカ……サカモト。どこいった? 来い。どうして、どうしてこねえんだぁあああ!!」
それは俺がお前の契約を解除して送り返したからだ。
状況からしっかり判断しろよマヌケ。
しかたないな、じゃあ俺がしっかりわからせてやるか。
■――仕組みを『殺し』ました。オニズカ、サカモトを呼び出します。
「うわっ、また呼び出されたのか!?」
「なんだ、一体なにが起きているんだ!?」
しゅんと光の柱が立ち、オニズカ、サカモト両名を呼び出したのである。
「よっしやぁあああ!! オニズカ、サカモトいけえええ!! セツカをぶっころせおらあああ!!」
イシイの奴は自分が呼び出したと勘違いをして奇声をあげている。
おいおい、それはさすがにアホの極みだな。
俺はサカモトとオニズカに命令する。
「オニズカ、サカモト。お前らの契約主であるセツカが命令する。イシイを一発づつ殴れ」
「ああ、セツカ」
「わかりました、セツカ」
そう言うと二人はずんずんとイシイの目の前に歩み寄る。
不良であるオニズカと、野球部で体を鍛えているサカモト。対して毎日遊び歩いているイシイ。
イシイはへらへらと笑みを浮かべながら、ノーガードで二人の拳を受け真横に吹っ飛んだ。
「お、お前らッ……へぶぶっ!?!?」
■――オニズカ、サカモトを転送します。契約解除。
やれやれ。力具合まで指定していなかったからあれはオニズカとサカモトの恨みが篭ったパンチということになるな。
床をころがり大げさに痛がるイシイ。
満足そうな顔をした二人は光の柱に包まれてまた転送されていった。何度も悪いな。
契約は解除しておいた。他人の力を縛るような力は不必要だな。
「いでっ、いでぇええよ。なんで、なんであいつら主人である俺に攻撃を……契約の力は絶対だって言ってたじゃないか!!
「古の勇者……もしかして」
わめくイシイの言葉を聞いていたスレイは、はっとしたような顔でつぶやく。
「セツカ様のお力は、一人の人間が持つ器を越えている気がするのです。古の勇者は物の仕組みを変える力を持っていた、と。しかし、セツカ様のお力は余裕でそれを超えている気がするのです。ならば、この星に伝わる救星の勇者がもしかしてセツカ様ではないでのでしょうか。神すらひれ伏し、宇宙の理をものともせずにこの世を救う。セツカ様こそ勇者!! だとしたらそこで吼えている男は……ただの詐欺師ですね」
スレイの言葉に、ほかの二人も納得した面持ちで頷く。
「やっぱりです。ご主人様とあの気持ち悪いひとじゃ、全然ちがいすぎます。ご主人様はスレイさんの言った通りものすごい人。気持ち悪いひとがかってに勇者をなのると詐欺でつかまって、どれいよりもひどいめにあうんですよ?」
「この男が勇者ぁ? ふぜけてるですぅ。精霊神に乱暴しようとしたクズが古の勇者を名乗るだなんてほかの邪神が許しても精霊神全員が阻止するに決まってるですぅ。セツカちゃんをさしおいてゴキブリが勇者になることなんてありえないですぅ!!」
「みんなありがとう。でも、俺は勇者なんかじゃないよ。静かに暮らしたいだけさ」
さて、これ以上は店の迷惑になる。
俺はイシイの首根っこをつかんで持ち上げ、通りへと連れ出した。
触りたくなかったが、暴れるため仕方なかったのである。
「やめろぉはなせセツカぁあああ!! 俺をそうやって子供の猫をもつみたいにつまむんじゃねええええ!! はなせ、みんなにみられてんだろおおおがああああああっ!!」
「ん? みんなに視られてるのはお前が五月蝿いからだぞマヌケ。みなさんこれは見世物ではありませんよー。ほら、お前もあやまりなさい」
イシイの体を片手で持ち上げ、揺らして謝らせる。見世物だと勘違いさせたら迷惑だからな。
顔を真っ赤に沸騰させたイシイは泡を飛ばしながら吼えている。
おいおい涙目じゃないか、困るな俺がいじめているように演出する気か?
はあ、注目されて嫌だな。
「ぐわぁあああゆらすなああああ!! てめえ、なんでうごかねええええ!! からだが死にかけたかえるみたいな体勢で固定されてぜんぜんうごかねええええ!! くそぉぉおお、どんな手をつかいやがったちくしょぉおおお!!」
「ん、持ちやすいように筋肉の動きを『殺し』てるからな。あ、これ大人しくさせてるんです。大丈夫ですから、みなさん心配しないで。あっ」
揺らしすぎてイシイのズボンが破れてしまったぞ。
こまったな、まあいいか。イシイの小イシイなんて誰も気にしないだろ。
よし、このぐらいで大人しくなったかな?
「馬鹿が油断したなぁ!! 『
そうやって俺の肌を右手で触れてきたのである。
うわ……触られちゃった。
鳥肌が立って倒れそうになった。これは有効な攻撃手段だと思うぞ?
「あれ? 契約しただろ、セツカ? なんで俺にしたがわねえ? なんでコマンドが出てこねえんだ? おい?」
思ったような効果が出なかったのか、奴は呆けた顔で自分の右手を不思議そうにながめている。
■――スキル『
「ふう、さてイシイ。こたえ合わせだぞ。お前のスキルは大きく変わった。最近、優しくて可愛い女の子たちと一緒に住むようになって俺もずいぶん甘くなった。だからお前のスキルは残しておいてやるよ。だが、もう発動は控えたほうがいいかもな」
「な、なんだよ? 俺の完全無欠な『契約』が何だってんだよ!! 今回はたまたま誤作動しただけだろうがっ!! 調子のってんじゃねえぞセツカ!! お前なんか他の奴を呼び出せば一気に……」
そうして、イシイは天高く右手を突き出す。懲りずに誰かを召喚するつもりらしい。
「――『
と、途端に口を抑え地面を転がり悶えだしたのである。
はあ、だから人の話は最後まで聞いたほうがいいのに。
「イシイ。お前の『契約』スキルだがな、ストレージ全部を馬糞で埋めた。そして召喚される場所はお前の口の中で固定だ。馬糞はストレージに永久固定されるからもうクラスメイトは使役できない。契約できるのは馬糞だけだ。実質口の中に馬糞を呼び出せるスキルということだな。すごいスキルだぞ? お前が毎日口から馬糞を生産すれば、異世界の肥料問題は暫く解決だな!!」
「…………………ふぐふぐぅっ!!??!?」
うえ。口いっぱいでうまく喋れないみたいだ。
忠告を聞き入れていればこんなことにはならなかったのに。
やがて涙を流しながらぺっぺと吐き出したイシイは、王城に向けよたよた走りながらこんなことを口にしていた。
「お、おほえでいやがれっ。ぜったいに復讐してやっからなセツカっ!!!」
……帰ろう。
あきれ果てた俺たちは、若干の疲労と共に教会への帰路へとついた。
「ご主人様、今日はとっても楽しかったです。お洋服一緒にえらんでいただきありがとうございました。一生たいせつにします!!」
「セツカ様セツカ様、私もとっても楽しかった!! まるで、みんなでセツカ様にエスコートを受けるデートみたい……また一緒にデートにきましょうね!!」
「お料理おいしかったですぅ。それにマナーの勉強になりましたぁ。セツカちゃん、ふーちゃんもっともっと勉強して今の時代に慣れたいですぅ」
もうイシイの記憶は無くなったみたいだな。
良かった。俺も奴のことを思い出すと楽しかったことが台無しになる気がする。
とても正しい判断だ。
やっぱり、この子たちの成長には驚かされるな。
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