第5話 手掛り

 希美代とジルはそれこそ必死で宇宙飛行士を探したが遂に彼を発見することができなかった。力及ばなかった自分らを責める二人。今更航宙局に連絡を取ろうかと希美代は考えていた。


 また二人は何度かPARADISパラディへいってみた。その都度ヒナが歓待し様々な果物を採ってきたが二人はそれに手を付けることはなかったし、宇宙服のヘルメットをとることもなかった。

 ヒナはコロニーの構造についての知識は薄かったが、打ちひしがれた二人の話相手くらいにはなった。


 その話の中でヒナは“お友達”が欲しいとしきりに言う。人間の“お友達”に尽くすことで初めて自分は稼働している意味があるのだともヒナは言った。そこにアンドロイドらしい“心”の形を希美代は感じ、ジルはどこかしら自分と重ねていた。


 だが、時折ヒナは気になることも言った。


「希美代さん。私のお友達になって下さいませんか」


 と。


 そのたびに希美代は


「あたしは友達なんていらないから」


 と返答していた。面倒臭いというのもあったし、なにやら不穏な雰囲気も感じたからである。


 もうこの“オタハイト”コロニーにいても仕方がない。遭難した宇宙船も遺体も見つからない以上宇宙ヨットジルコニア号に戻って航宙局にこの事を知らせないといけないと希美代は腹を括った。


「ジル、明日航宙局に連絡を取ろうと思う」


 ヨットのデッキでジルに抱かれながら希美代は呟いた。


「かしこまりました。しかし、今回の内容。どうご報告なさいますか?」


「ううん……」


 一切のルールを無視した救難信号。一方的な通信内容。あり得ない機能を搭載した見たこともない宇宙服。こんな内容誰が信じるだろうか。一笑に付されて終わるかも知れない。何もかもがあまりにも常識外れだ。


「……まるで」


「まるで?」


 希美代のつぶやきにジルが答えた瞬間、希美代の頭の中で何かがはじける。一つの可能性が脳細胞の中で行ったり来たり高速で検証されるにつれ間違いない確信に変わっていく。ただでさえ大きい希美代の眼がさらに大きく見開かれジルを見つめる。


「お嬢さま?」


「ジル、判ったかもしれない」


「何がでしょう」


「この遭難事件よ」


「ただの遭難とは違うのですか」


「違うの、全然違うの。ねえジル、検索条件を変えてデータベースをみて」


「かしこまりました。しかし何をどのようにすれば」


「いい? 私の言うとおりに検索して――」

 



 標準時にして翌朝九時二十分、希美代はジルを伴いPARADISへ向かった。


 十二、三の少女のように見える女神ヒナが子供のように一人と一機にパタパタと嬉しそうに駆け寄る。


 厳しい表情の希美代、気まずそうな表情のジル、そして無垢な笑顔を振りまくヒナ。


「あんたこれ一体どういうこと」


 憮然とした表情の希美代は、この人工宇宙島の女神に辛らつな口調で言い放った。

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